門田さんと遭遇した翌日は日曜日だったけれど、特にこれと言って変わったことはなかった。
というより、私自身が何の行動も起こさなかったのだ。理由はいくつかあるけれど、一番大きな割合を占めているのは、『怠かったから』だった。
別に、土曜日に何か疲れる出来事があったわけではない。
朝起きたら体がとても重くて、けれど熱は少しもなくて――原因はよくわからないけれど、ベッドから起き上がるのが辛かった。
結局その日はほぼ一日中ベッドの中で蹲って過ごしていた。思わず何か変な病気にでもかかったのかと不安に思ってしまった。
――と、他人事のように説明していれば気も落ち着くかと思ったけれど、そういうわけにもいかないようだ。
「……あー」
日付の変わったデジタル時計を眺めながら、私は布団の中で小さく唸る。
午前0時を回った瞬間を、デジタル時計の曜日が月曜日になったのを見届けて、布団を頭から被ってみた。
すると世界が真っ暗になり、ここが私の知らない場所だということを少しだけ忘れさせてくれる。
でも、本当に、ここはどこなのだろう。
昨日『こんな出来事には驚かない』と公言していたけれど、そんなことは全然なかった。
覚めない夢、高校生時代のあの人たち、生きている両親と桃里、千景と出会っていない私、高校生な私。
本当はこの場所で、誰とも知り合いではない私。
体が弱ると思考もネガティブになってしまうのか、そんなことばかり考えてしまう。
一人で布団に蹲っている自分とは言えない『自分』に心細さを感じてしまう。
ここから元の場所に戻れるのだろうかと、避けていた現実を見てしまう。
「……ああー」
無意味に声を出して思考を誤魔化しながら、やっぱりホームシックだとぼんやり思った。
もともとここには、自分で望んできたわけではない。両親の声を聴いて、桃里にまた出会えたのは嬉しいけれど、少しはしゃいでしまったのも事実だけれど。
それでもずっとこの場所にいたいわけではない。ここは私の居場所じゃない。
こんなときに誰にも会えず、誰とも話せず、どう相談すればいいのか、何を相談すればいいのか、誰を頼ればいいのか、そんなこともできないわからない場所に長くいたくはない。
新羅さんとどれだけ仲がいいのかもわからないし、セルティさんと面識があるのかも知らないし、平和島さんと門田さんは初対面も同然で、折原さんは――。
「どうしよう……」
折原さんの顔を思い出して、あのだいたい良くないことを企んでいる顔を思い出して、意地悪に笑うその人を思い出して、向かいで一緒にご飯を食べている折原さんを思い出して、
本気で寂しくなっている自分に気付いた。いや、本当に、どうしよう。声とか聴きたくなったんだけど、どうしよう。
「いやいやいや、寂しくない。折原さん以外の人にも、会いたいし」
そわそわとし始めた自分の思いを打ち消すように呟いて、ふとここにいる『折原さん』を思い出す。
私の知っている折原さんとは違うけれど、顔や声は同じ、『私』風に言えば『折原くん』な彼の様子を頭に浮かべる。
そうしてふと、彼と話せばこの気持ちも落ち着くんじゃないかと考えてしまった。
「だからあれは『折原くん』で、折原さんじゃないっ」
わかっているはずの言葉を自分に言い聞かせ、バカな考えを放棄した。
そうこう悶々としているうちに定期的な眠気に誘われ、私は半ば寂しさから逃げ出すように意識を睡眠へと預けた。
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