「おっ、来た来た!なまえ、こっちこっち」 すっかり常連となってしまったバーの扉を開き、辺りを見回して見知った顔を探していれば聞き慣れた声がカウンター側から私の名前が響く。そういえば今日はアントニオさんがいないから必然的にカウンターになるか。いつもの癖でテーブル席にいると思ってしまったことに少し恥ずかしさを覚えながらカウンターの方へ小走りで向かった。 「虎徹さんこんばんはーっす…って、げっ!」 「『げっ!』はこっちの科白です。おじさん、何でこの人が来るんですか」 「別にいいじゃねーか。他人って訳じゃねーんだからさぁ」 虎徹さん、何でこの人がいるんですか。今日は二人で自棄酒やるって約束したじゃないか。何でこんな…こんな兎野郎がいるのだろう。っていうかここ暗いんだからグラサン位外せよ…さてはこいつグラサンは体の一部だったりするんだろうか。そんな阿呆なことを考えているとこいつ──バーナビー・ブルックスJr.は訝しげな目で私を見ながら「どうせまた馬鹿げたことでも考えてるんでしょう」と吐き捨てた。いちいち気に障る物言いを毎度吐くんだから虎徹さんも大変だろう。ストレスでハゲないことを心の中で祈っておくことにする。 「相変わらず仲良いな!まぁ座れよ」 「虎徹さん一回耳鼻科行って来なよ。今日は一杯飲んだらすぐ帰る」 「え〜何でだよ〜」 「どうせ僕がいるからでしょう」 「え?うん」 「僕だって貴女みたいな品のない女性と酒を飲んだら不味くなります」 「お酒もお前みたいなスカした男に飲まれて可哀相だよ」 虎徹さんの左隣に座れば、虎徹さんの右隣にいるグラサン野郎の姿はあまり見えなくなる。虎徹さんは何か言いたげにしていたが何も言わず結局押し黙ると飲んでいた焼酎を口につけた。それを横目にマスターにいつも飲んでいる酒を頼む。今日はたくさん飲むつもりだったのに、予定が盛大に狂ってしまった…私は何の為に有休をとったのだろう。お互いの仕事の休みがばらばらな中、虎徹さんと飲みに行く日なんて全然ないのに…。 「兎の丸焼きって美味しいのかな」 「兎って僕のことですか」 「うわ、自分のこと兎だと思ってんの?全然可愛くないから!まず動物の兎とお前を比べることが動物の兎の冒涜だよね…」 「なっ…!」 「なまえ〜バニーはこれでも結構可愛いとこあるんだぜ?大抵は腹立つことばっかだけどな」 「おじさんそれフォローになってないです」 |