「はい、どーも」 偉人の顔が描かれている紙切れを目の前で悔しそうに顔を歪めている男の手から引き抜くと、男は小さく悪態をついた声をぼそぼそと漏らした。汚い手を使った上に負け惜しみなんてエリートトレーナーの風上にも置けない奴だ。そのエリートトレーナーという一部の人間にしか許されない立場に立てたのも、持ち前の悪知恵と汚らしくへし曲がった根性からなんだろうか。どちらにせよポケモントレーナーとしても人間からしても生きている価値が見当たらないのは確かだった。そんな奴から金をとる私も腐っているのかもしれないけど。 いくら稼いだか数えようとベンチに腰掛けたところ、隣をのそのそと歩いていたレントラーがぴくりと何かに反応した。レントラーの視線を辿ると久しく見なかった顔が私に向かってゆっくりと手を挙げる。彼は──デンジは私の隣にどかりと座り込むとレントラーの頭をがしがし撫で始めた。数日前懸命にブラッシングをした私の労力は今この瞬間無駄と化した訳だ。溜息を堪えて替わりに「久しぶり」と言えば、「あぁ」と何ともいい加減な返事が返ってきた。数年間顔を合わせていなかった筈なのに簡単に終わる挨拶はとても呆気なく終わる。 「元気にしてた?」 「それなりに」 「レントラー元気?」 「元気過ぎてオクタンにちょっかい出してやばいことになった」 「エレキブル可愛い?」 「この間部屋にある植木鉢に水やってたよ」 「アフロは相変わらずオーバ?」 「あぁ、アフロはオーバのまんまだよ」 「そっか」 「変わってねーよ、ナギサは」 「うん」 「あ、いや、嘘。お前いねーし」 戻ってこいよ。っていうかお前に戻ってきて欲しいからトバリまで来たんじゃねーか。 そう言ったデンジの顔を見れば、私がナギサを出て行く時に浮かべた、泣き出す前のあの苦しい表情を張り付けていた。撫でる手が止まったことに対し、小さく声を上げるレントラーは何処か場違いの存在に感じる。 「俺はお前がいなくちゃダメなのに」 デンジはあの頃のまま何一つ変わってはいなかった。小さい頃どっちが速く走れるか海辺で競争した時みたいに、純粋無垢なままだった。それなのに、 「ごめん。無理。帰れないし、帰るつもりもない」 「…俺やオーバよりも壊滅したギンガ団が大事なのかよ」 「……」 「活動資金貯めてんだか知らねーが、そんなもん集めてもとっくにギンガ団は解散したんだ。人なんて戻ってこねーよ」 「…そんなの」 そんなこと、とっくにわかってる |