久し振りの挑戦者は呆気なく期待外れに終わり、肩をがっくりと落としながらうなだれるその姿に少々の侮蔑と嘲笑を覚えながら定型文を口から無理矢理吐き出した。貴方様の実力など所詮運頼みなんです、なんて言ったら激情するだろうか。心の中で幾度かそのトレーナーに対する中傷を呟きながらもうすぐ到着するであろうギアステーションはまだかと考えた。退屈だ。 *** 部下からの労いの言葉を同じく労いの言葉で返しながら溜まっている書類の片付けにでも行こうと歩を進めていれば見知った顔が向こうから歩いてきた。 「おや」 「あ……お疲れ様です…」 その人物はわたくしの顔を見るなり立ち止まると、モップを握り締めて俯く。わたくしが通り過ぎるまでそのままの体勢でいるのだろうか。仮にも恋人なのだから、もう少し気を楽にして欲しいというのはわたくしの我儘、ではないはずだ。 「なまえ、今は休憩中なのですか」 「えっと、…はい、まぁ…モップを片付けたら、ですが…」 「丁度いい。わたくしはこれから書類整理に入ります。なまえはコーヒーを炒れて下さいまし」 「えっと…分かりました」 なまえは視線をさ迷わせてから駆け足で廊下を走って行く。転びますよと口を開きかけるとタイミング良く彼女は転んだ。暫くじっと見ているとなまえはゆっくりと立ち上がり、埃を払ってから不意に後ろを振り返る。視線が交わったところでなまえは泣きそうな顔を浮かべて再び駆けて行った。 何故泣きそうな表情なのかわたくしにはさっぱりで、暫くその場で考えていると業務中にも関わらずお菓子を片手に持っているクダリがなまえが消えていった方から歩いてきた。 「ノボリの彼女泣いてたけどどうかしたの?」 「……わたくしにもよく分からないのです。…あ、転んだ時に打ち所が悪かったんじゃないでしょうか」 「え、ノボリ見てたの?転ぶとこ」 「?見てましたが何か?」 「助け起こすぐらいすればいいのに…女心わかんないんだね、ノボリって。うわー…ノボリうわー」 初めてのお付き合いに女心もクソもあってたまるもんですか |