trash | ナノ



「でさー、『まったく!貴方のコンビ組んでる僕の身にもなってくださいよ!』だぜ?参っちゃうよなぁ」
「はは、いつもお疲れ様です」

相変わらず虎徹さんの愚痴紛いな話は面白い。バーナビーの物真似とかが特に。
バーナビーの個人的な仕事が終わった後一緒に街に行く予定だったのだが、見ての通り仕事に時間がかかっているようで、
待ちぼうけ状態を見かねた虎徹さんが私に話しかけてくれるのはもう何度目のことだろう。
普段バーナビーと過ごす日常に仕事の話は一切ないから、私の知らないバーナビーの話を聞けるというのは何だか不思議な体験だった。そしてその体験をしている内に気になることが幾つかぽんぽんと出てくるようにもなった。

「でも何だか不思議ですよ」
「?何がだ?」
「バーナビーがそんな聞かん坊だったなんて意外です」
「え、なまえの前でのバニーってどんな感じなんだ…?」

好奇心の色で溢れている虎徹さんの目は三十代後半とは思えないくらい輝いていた。
どんな感じってきかれてもなぁ…。ずっと手に握っていた、虎徹さんが持ってきてくれたココアの缶の蓋を開けながら考える。どんな感じか…。

「…疲れた疲れた言いながら抱きついてきたりとか」
「え」
「あとテレビ見てる時とか自然と膝に頭乗っけてきたりとか」
「えええ」
「時々頭洗うよう頼んできたりとかもしますね」
「えええええ………なんか俺の中のバニー像が若干壊れちまったよ…」
「あ、なんかすいません…」
「いや、そういうんじゃなくてよ。あいつ人に頼らないところあるからよぉ、なまえが傍にいてくれて良かったっつーか」

私としては虎徹さんがバーナビーのコンビで良かったなぁと思っているけど。
「これからも一緒にいてやってくれよ」と言う虎徹さんに笑って頷くと、彼は満足そうに笑顔を浮かべて私の頭をぐちゃぐちゃとかき回した。ああ…折角のセットが見事に崩されていく…。
彼に悪気はないので特に止めることもなく撫でられる手をそのままに、撫で終わるのを待つことにする。

「虎徹さん貴方何やってるんですか」
「!バニー仕事終わったのか」
「なまえから離れて下さいよ、おじさんが移るじゃないですか」
「おじさんが移るって何?!加齢臭的なアレ?!」
「まあまあバーナビー。あ、仕事お疲れ様」
「ありがとうございますなまえさん。そろそろ行きましょうか」

バーナビーにぐいと手を掴まれ、私は一瞬バランスを崩しつつも一緒に歩き出す。後ろの方で半分呆気にとられている虎徹さんに、どちらの手も空いていないので一度お辞儀をしてからバーナビーを振り返る。
整っている彼は少しむすりとした表情を浮かべている上に、心なしか手を握る力が強い気がする。少し痛い。バーナビーの名前を呼ぶと、彼は立ち止まり「何ですか」と硬い声音が返ってきた。
私と彼しかいない長く続く廊下は静寂が全てを覆っている。そんなに気まずい気はしないのは、普段彼が些細なことで焼餅を焼いてしまうので既に慣れてしまっているからだ。

「そんなに私と虎徹さんが話してたのが気に食わなかった?」
「…楽しそうでしたね」
「そりゃ楽しいよ。バーナビーの話をするのは」
「僕の話?」
「うん」
「…そうですか」

少しだけ緩んだ手を握り締めて、バーナビーを引っ張り歩き始める。さっきとは違ってバーナビーが一瞬バランスを崩しそうになった。