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がりがり。がりがり。と耳元で何かが噛じられる音がする。僕は黒いスーツに正座と、真夏には少し辛い格好と体勢で住職の経典を聞いている。これが終わったらすぐに寮に戻って小テストのテキストを完成させなければならない。早く終わってしまえと思うのに住職は経典を読む行為をそう簡単にやめてくれそうにはなかった。

がりがり。がりがり。と耳元で何かが噛じられる音がする。この音は今此処で経典を挙げられている彼女の、みょうじなまえの癖だった。みょうじなまえはいつも何か棒状の菓子を口に含めて、その菓子がなくなってもがりがりと噛んでいた。そうしないと何だか落ち着かないのだと言う。一種の病気だとも言っていた気がする。初めて見た時からそうであった為に、僕の中では今でも行儀が悪い人という印象が強かった。おまけに悪魔と戦う時も乱雑さが目立ち、何事も迅速かつ冷静に済ませたい僕とは真逆の路線を突っ走っており、任務の途中にも関わらず何度か僕と言い合いになったこともあった。だから、言い合いに夢中になりすぎて、身を潜めていた悪魔が襲ってきたことに一瞬反応が遅れた僕を庇って死んだのがみょうじなまえで。だからこうして僕はみょうじなまえの葬式に出ているわけで。

がりがり。がりがり。と耳元で何かが噛じられる音がする。僕は最初から分かっていた。これは僕が作り出した幻聴であることを。それでもこれを幻聴と認めたくないと思うのは、彼女の笑った時のあの顔と、彼女がいたという証拠を残したいからだ。

がりがり。がりがり。ぺきり。棒は折れた。