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何事も順調に進むのに最後の最後でドジを踏むのは最早俺の特技と断言してしまっていいだろう、と呼吸することさえ辛い体を引きずりながら思った。
任務は無事遂行出来たがそれなりに手傷を負ってしまった。音と砂が手を組んで起こした木ノ葉崩しのお陰で任務に準ずるべき人員が圧倒的に不足した為に本来二人一組でやるべき任務もこうして単独でやっている訳で。五代目は俺のことを買い被り過ぎていた。名門でもない家の出で血継限界や秘術も持っていない、ただただ平々凡々な忍の生活を送っている俺にこの任務内容はきついものでしかなかった。
一歩進むごとに腹部から今まで見たことない程の夥しい血が地面に垂れていくものだから視界が霞む。有り難いことに痛みはないが、こんなに腹が裂けているのに痛みを感じないということはそれ程ヤバいってことだ。そろそろ限界だ。里になんて戻れそうにない。どうやら俺は此処で野良犬の様に間抜けに野垂れ死ぬようである。忍に普通の死に方を期待するなんて馬鹿げてるが、誰にも看取られずに死ぬのは寂しいと思ってしまう自分を女々しく感じて少し嫌になった。
適当な木に体を預けて目を閉じる。あまり良いとは人生ではなかった。せめて彼女ぐらいは作っておきたかったと思う。こんな一生出世する気配のない男を相手にする女なんてよっぽどの物好きしかいないだろうが。

「……はは…」

無意識に掠れた笑い声が漏れる。本当に、良いことがない人生だった。脳裏に過ぎる思い出は情けないものがほとんどだ。十九年間くだらないことばっかだったなぁ…。

「…みょうじか」

アカデミーから始まる走馬灯をぼんやりと見詰め耽っていると懐かしい声がまだ機能している耳に入り込む。幻聴かもしれないと思いながら、視線を傷口から前に向けた。形の整っている黒い爪と白い足が徐々に狭くなりつつ視界に入り、辛うじて顔を向ければ長い間見ていない顔が俺を見下ろしていた。あぁ、こいつは確か……

「うち、は、かぁ…」

息も絶え絶えに出された声に彼はゆっくりとしゃがみ込み、俺と視線を交わらせる。いつの日か綺麗だと感じた黒曜石のような黒い瞳が無感情に俺の傷口をなぞった。

成績はどちらかといえばドベに近かった俺と違ってうちはイタチは忍術、体術共にアカデミーではトップの成績で大勢の期待を背負って有名だったが、その反面クラスの奴らからよく反感を買ったり怨みを持たれていた。二度試験に落ちた俺とは真逆にうちははすぐに下忍、中忍…と階段を上るように昇格していったから、お互い話すこともなければ話しかけることもなかったのだが。
何でこいつは一度も話したことのない俺の名前を知っているのだろう。

「相変わらずドジなのは変わってないようだな」
「……ぅ、ん…?」
「同じ屋根の下で学を得た者として最期くらい看取ってやろう」
「……………」

故意に付けた傷のある彼の額宛てと微かに傷付いた俺の額宛てが互いに相容れない位置にいることを指し示していたが、俺がこんな瀕死の状態でうちはイタチを殺せるわけがなかった。それを分かっているうちはも時間が経てば嫌が応でも勝手に死ぬ俺に止めを刺すような真似はしなかった。
最期になるが、俺の忍人生を語るにあたってうちはイタチは欠かせることない人物であり、馬鹿な俺にとって憧れの塊であった。彼に追い付きたいが為に不器用ながら修行を繰り返し行ったし、努力もした。体力も頭脳も人並みな俺だったから、ほとんど何も変わりはしなかったけど。それは彼が自ら一族を滅亡に追いやり、抜け忍になっかてからも憧れの対象はうちは以外には変わらなかった。
だから何の因果かは分からないが、俺の情けない最期を看ていてくれる人間が、いつまで経ってもも追い付ることの出来なかったうちはであることと、何の取り柄もない自分を覚えていてくれたことに少しだけ嬉しさを感じるのである。

「 う、…ち は…」
「何だ」
「おれ、は…」

お前に忍術を教わりたかった。組み手の相手をしてほしかった。話しかけてみたかった。友達になってほしかった。

お前みたいな、すごい忍になりたかったなぁ。


いのちの燃え尽きる匂い
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