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毎回このベッドは広くてでかいなと、来る度にそう思う。何度そう思ったかは、両手で数えられなくなってからというもの忘れてしまった。それはもう既に遠い昔の話である。そのまま手を引かれ、靴を脱がないままベッドに押し倒される。俺を押し倒した彼の顔は暗くてよくは見えないけれど、耳につけているピアスだけは存在を主張するかのように鈍く光っていた。ああ、また今日も始まるのかと、思考が麻痺してしまっている俺はそう思った。

額に、首筋に、瞳に、そして最後に唇に惜し気もなくキスをされ、俺は何も抵抗出来ずにいる。抵抗したら俺の何もかも全てが終わってしまうことは分かっていた。世間から聖帝と呼ばれる彼は無表情でひたすら俺にキスを繰り返す。無言でただただ俺に口づける。こそばゆい感覚が俺を支配していくのを感じた。何だか体が変な感じだ。気持ちが悪いような、むず痒いような、そんな感じ。聖帝は片手で俺の手をぎゅっと握り締めて、それからもう片方の手で俺の背中を抱きしめた。彼は何も言わない。彼は異常だ。俺みたいな年端もいかない子供──しかも男にだ──にこうやってキスをして、抱きしめる。性行為を強いる。正常な人間ならこんなこと絶対にしないし、やらない。彼は異常なのだ。俺は聖帝のように異常な性癖なんて持っていない。俺は普通にそこら辺にいる女の子が好きなのだ。だからこんな、いい歳した男に抱かれるなんて出来ればしたくなかった。





「……前から思っていたんですが、」
「…何だ」

何度目かの性行為の後、聖帝は俺を抱きしめながら俺の髪の毛を掴んで弄って遊んでいた。俺の髪なんか触って何が面白いんだろうか。俺より彼の髪の毛の方が格段に綺麗だと思う。…あの青色のメッシュはあまりいただけないが。

「聖帝は男子中学生に手を出す程女に飢えてらっしゃるんですね」
「……なまえはなかなか面白いことを言うな」

そう言うと聖帝は体を起こして、俺の腕を引っ張り俺の体も起こし上げた。頭一つ分くらい違う俺と聖帝の視線が静かに交わった気がするが、生憎薄暗いので本当に交わったかは分からない。

「なまえは私が女に困っていると思っているのか」
「…違うんですか?」
「お前を気に入っているからこうやって私室に入れてるじゃないか」
「…答えになってません。俺の体散々弄くって楽しいんですか」
「好きな人間の体には触れたいと思うのが当然の性だろう」
「………」
「私はなまえが愛しい。此処でお前と出会った時からお前しか眼中になかったと言ってもいい。お前はフィフスセクターに従わなければ生きていけないと知った時は嬉しかったよ。お前は私のものになる以外の道は他にないと。お前は永遠に私に飼われ続けるんだ」

俺が口を開いた瞬間、それを見計らったように聖帝は俺の口に食らい付いた。舌が咥内をうごめく所為で卑猥な水音が静かで薄暗い部屋に響く。気持ち悪い。気持ち悪い。でも少しだけ気持ち良い。そう考えてしまう俺は少なからず彼に毒され始めているのかもしれない。ああ嫌だ。ここに正常な俺はもういないのだ。

いつかの俺は、いつの間にか音もなく彼によって殺されてしまっていた。

ハート・シック