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「今日は私が料理するよ!」

夕方、「ただいまー」と間延びした声を上げて帰ってきた土門にそう告げると、私の言葉に彼は困った顔をして、それから何か言いたげに口を開いたが結局何も言わずに頷いた。な、何だよ…。

「文句があるなら言ってよ」
「い、いやー、…だってなまえお前手先不器用じゃん。手切断しないか心配だぜ」

鞄を手渡しながら真顔で言われた言葉に私は少し衝撃を受ける。切るとかじゃなくて切断と断言してしまう程私は土門くんに危険視されているらしい。そんな危険視させてしまうくらい包丁を持ったことないのに…。

「っつーか、どうして急にそんなこと言い出すんだ?」
「だって今日疲れてるでしょ、土門くん」
「え、…あぁ、まぁ…ちょっとだけな……顔に出てたか?」
「何となくいつもと雰囲気が違ったから」

私の観察力をナメてもらっては困る。土門くんは参ったなと頬を掻いてから、「じゃあ頼むよ」と任せてくれた。私の頭を撫でてから居間の方に歩いて行く土門くんの後ろ姿を見つめる。いつものことながら土門くんは私に優しいというか、甘いというか…。まぁ別に料理する許可貰えたからいいか。


***


「大丈夫か?怪我してないか?」
「うん大丈夫大丈夫。大丈夫だから何か他のことしててよ」

そんな数分ごとに声をかけられたら集中するものも出来ないんですけど…。心配してくれる気持ちは痛い程分かるが、ソファーに座ってテレビを見るとか、寝るとか、もっとやることあるだろうに。

「土門くんちょっと向こう行っててよ…」
「だってやることねーんだもんよ」

あ、そっか…いつも私の方が仕事終わるの遅いしな…。でも今日ぐらい私に料理をさせてくれたっていいじゃないか。じっと自分を見つめてくる私にたじろいだ土門くんは、少し拗ねた顔をしてすごすごと向こうに行ってしまった。よし、これで集中出来そうだ。






と思ったのもつかの間、土門が心配していたことをお約束通りやってしまう私は本当馬鹿だなと思う。
人差し指に鋭い痛みが走り、思わず包丁を取り落とすとまな板にそれが勢い良くぶつかり大きな音を立てる。その音と同時にどたばたと居間から音が響き、土門くんがやっぱりといった表情で駆けて来た。片手には救急箱が握り締められている。指は切らないよなんて言った傍から切ってるのだから土門くんの顔を上手く直視することが出来ずに、俯いて指を隠す。

「おいおい、隠しちゃ意味ないだろ…手当するぞ」
「……何かごめん」
「いーっていーって。ほら、」

ゆっくり手を引かれてソファーに座らされて私は大人しく土門くんの手当を受けることとなった。絆創膏を貼られた人差し指を見つめる。くそ、折角料理作ろうと思ってたのにちくしょうめ…。

「後はオレが作っておくから、なまえは皿でも用意しといてくれ。そしたらテレビでも見てて構わないから」
「うん…どうせこの指じゃ手間取っちゃいそうだしね…」

土門くんは私の左手を取ると眉を八の字にして、心配そうな目を私に向けてきた。

「痛むか?」
「え、うん。少しだけ…でも大丈夫だよ」
「それでも痛むんだろ?…キスの一つでもしたら治るか?」

日頃そんな冗談ばかりを言う土門くんはいつもなら笑顔を浮かばせて言うのだが、何故か今日は真顔で言うものだから頬に熱が集まるのを感じた。

「な、なぁ…」
「な、何…」
「冗談だって言おうと思ってたのによ…何でそんな可愛い顔するかねぇ…」

そう言う土門くんも顔真っ赤なんだけどね、なんて言うことすら出来ず、私達は暫くこうしてお互い黙って赤くなりながら手を握っていることしか出来なかった。

せりあがるような愛

Sさんへ!拙い作品ですが愛は込めました