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どんなに頑張っても追いつけないものがあると知ったのは、アカデミーに入ってすぐのことだった。
テスト前日の時だけでなく、二週間前からこつこつと「遊ぶ」という選択をせずひたすら修行に励んでいたのにも関わらず、私はどうしてか必ずうちはイタチには負けていた。

このときから私は努力は天才には勝てないということを知ってしまってこんな捻くれ者になってしまったのだと思う。

一年前のアカデミーでなら秀才が現れたとか、ついつい天狗になってしまいそうな浮ついた言葉を沢山もらうことができたのかもしれないけれど、その言葉をもらうのは私ではなく、あのエリートといわれるうちは一族のイタチなのだ。別に誰かに誉めてもらいたかったわけではない。
先生は「次は一番になれたらいいな」と不貞腐れている私にそんな言葉をくれたし、友達は「次があるよ」と励ましてくれた。

だけどそんなものは慰めにしかならなかったのだ。

私は、ただ、皆に見て欲しかっただけで。
それだけだった。


「みょうじの手は痛そうだな」


二人一組になって互いの変化の術を見合うという、私とうちはにとってはとても簡単な授業中に、うちはは私の手を見てそう言った。自分でも包帯を巻いてもじんわりと赤く滲んでくる少しグロテスクな手を見てうちはの言葉に共感する。 私だってこんな女の手とは思えない位、クナイの投げ方とか手裏剣の投げ方なんて練習したくはなかったし、睡眠時間を削ってまで印の組み方を覚えたくはなかった。
死ぬくらいの努力をしたところで、全てこの男には通じないことを知っていたからだ。

私はうちはの手に視線を落とす。

彼の手はクナイの持ち方を誤って自分の掌を切ってしまうこともない。何の汚れも無いような、女の人の綺麗な手のようだった。
遅くまで起きて印を結んで目の下に黒い隈をつくることもない、健康体な体そのものだった。

恨めしげにうちはを見ると、うちはは私が送る視線の意味に気付いたのか、ゆっくりと笑った。彼にそんなつもりはなかったんだろうが、私の今までやってきた努力の積み重ねを嘲笑われたようで酷く腹立たしい。うちはは私の心中がどう渦巻いているのか分かっているのか、分からないふりをしているのか。私の手を優しく痛まないように握ると「救護室に行こう」と彼らしくない言動を口にする。
私みたいな人間にはそんな風に優しく言えない科白をすらすらと言ううちはは、私には届かない人だった。
忍に優しさなんていらないのに、うちはは優しさを持って私に接するから、益々私は憤りを感じざるをえない。


「みょうじみたいに努力がたくさん出来たなら俺ももっと強くなれるのだろうな。俺には忍耐力がない…だから、お前のことを尊敬するよ


うちはが言ったところで、嫌味にしか聞こえないよ。強くうちはの手を握ると、傷口が大きく開いた。痛い。なきたい。

然もあらばあれ