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鋼鉄島での修業は一旦休憩に入り、お昼でもとろうかと昼飯の準備をしていた間に私のリオルが何処かへ失踪してしまったのは一時間前の話だ。そして、ゲンさん──私が初めて鋼鉄島を訪れた際に案内をしてくれた優しいお兄さんだ──のルカリオが波導の力を使って傷だらけになったリオルがいる場所を見付けたのが数分前の話である。

「あれだけ勝手にほっつき歩くなって言ったのに!」
「まあまあ、そう怒らずに手当てしてあげなさい」

困ったように笑って私を嗜めたゲンさんは私の鞄から包帯やら傷薬やらを取り出して私に持たせてくれた。いけないいけない。ゲンさんの言う通りだ。とりあえず説教は手当てが終わってからだ。私は仁王立ちで腕を組み、偉そうに踏ん反り返っているものの、あちこちに怪我をしているリオルに座るよう声を掛ける。が、リオルはふんっと鼻を鳴らして座る様子はなかった。何なんだこいつは。反抗期か何かなのか。今まで愛情込めて育ててきたつもりなんだけどなぁ。何をどう間違ったんだ私。教育方針を間違えてしまったか。

「ゲンさん私どうしたらいいいですかね。私今まで育ててきた子、皆が皆素直だったから対応の仕方が分からないんですが」
「ふむ…この間の修業では脱走はすれども怪我の手当てはさせてくれた記憶があるんだが」

ちなみにこの修業は四回目だ。そしてリオルが脱走し始めて四回目でもある。つまり修業する度にこうも姿を消してはけちょんけちょんのボロ雑巾のような姿で帰って来るのだ。ルカリオや他の手持ち達に目を光らせてもらっているものの、出し抜くのが得意なのかいつの間にか消えていたりする。そろそろ心配するこっちの身にもなっていただきたい。

「リオル、手当てさせてよ。痛いじゃん、それ」

私の言葉にぶんぶんと首を振ったリオルはそのまま痛々しい状態で昼食であるきのみを黙々と食べ始めた。え、何こいつ。急な反抗期とかほんと勘弁なんだけど。

「私何かやったっけか…」
「鋼鉄島に来た時からこんな状態ではなかったね。もしかしたら私達に問題があるのかもしれない。…リオルがいなくなる前の私達の行動を思い起こしてみようか」

ゲンさんったら相変わらず冷静ね!そう思いつつ脳みそをフル回転させて思い返してみる。リオルがいなくなる前…は、確か……あ、そうだ。

「強ポケ対策としてゲンさんのメタグロスと私のグライオンでバトルしてて…」
「!…確か前は私のボーマンダと君のポリゴン2がバトルをしている最中にいなくなっていた………ふむ」

ゲンさんは考える仕種をした後、何か思い当たる点があったのか神妙な顔で私の方を振り返った。そしてゆっくり口を開く。

「…焦っているんじゃないのかな」
「はい?」
「君の手持ち達は今のチャンピオンにも互角に渡る強さを持っているだろう──生まれて間もないリオルを除いて、だ」
「…あ!だから毎回私とゲンさんのバトルを見ては…」
「自分以外の手持ちが自分とは較べものにならない位力量の差があることを知り、焦っていた……あくまで私の推測だけれど、」

あながち間違ってはいないようだね。
ゲンさんの視線の先にいるリオルに目を移すと、リオルはばつが悪そうに、ふて腐れた表情を浮かべながらきのみを手に持ったまま微動だにしない。どうやら図星のようだった。

「…さて、私はちょっとルカリオと修業でもしてくるかな。君はリオルと話をするといい。一対一の方が話もしやすいだろう」
「あ、どうもすいません気遣わせちゃって…」
「いや、気にしないでくれ」

すたすたと去っていくゲンさんと数歩歩いては心配そうにこちらを振り返るルカリオにひらひら手を振り見送ってから、先程から黙り込んでいるリオルに向き直る。リオルは私と視線を合わせようとはしなかった。リオルの前にしゃがみ込み、「リオル」と名前を呼べばようやく視線が交わる。

「リオルは手持ちの皆みたいに強くなりたいの?」

一瞬の沈黙の後、リオルは静かに頷いて肯定の意を表した。先程の反抗期は身を潜めたようで私は心の中で一つ溜息を零す。これで再び反抗された日には折角空気を読んでいなくなってくれたゲンさんに顔向け出来ない。

「えーと、…私さ。ゲンさんに言われるまでリオルが何考えてるかわかんなかったからリオルのトレーナーとして最低な奴だと思うんだけど、リオルとは一緒に強くなって他のトレーナーとバトルして勝って喜んだりしたいって思ってる」

リオルは口を少し開けたままじっと私を見詰めている。

「──だからリオルがひとりで突っ走って怪我したら私は悲しいよ」

これでもちゃんと今のリオルに合った戦闘スタイルとかトレーニング考えてたんだけどね。
笑いながらそう言えばリオルは目を見開いた。どうやらリオルは私は何も自分のことは考えてないと思っていたようだった。そんなことあるわけないのに。

「ね、リオル。少しぐらいの無茶ならいいけど、こんなにボロボロになるまでの無理しないでよ」

リオルは何も言わなかった。言わなかったが持ったままのきのみを置いて私に一歩近付いた。そして私が持っていた傷薬を数回つつき、私を見上げる。何かを訴えるような表情だった。

「…ん、手当てさせてくれるの?」

差し出された腕を前にして私はようやくリオルの手当てを始めることが出来る。傷薬を噴きかければリオルは苦しそうな顔をすれども逃げようとはしなかった。

「ねえリオル。一緒に強くなっていこう」

そう言うと、リオルは少し笑った後強く頷いた。

包帯の隙間

企画「こわくないよ」様に提出
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