「なまえちゃんのバクフーンって何て言うか…近寄り難いっていうか、クールよね」
自分に抱き着いてくるバクフーンを撫でながら彼女達はそう言った。彼女達のバクフーンは皆元気で甘えたさんが多い。それ故か冷静沈着で多少のことには動じない私のバクフーンを奇異の目で見てくることが何度かあった。ちらりと隣に座っているバクフーンを見れば、バクフーンは両手で大事そうに私が作ったポフィンをむぐむぐと無表情で咀嚼している。彼女達の言葉は確かに聞こえている筈なのに何も反応してないところを見ると本人も自覚しているのかもしれない。
「そうそう、他のバクフーンと違って警戒心が強いっていうか、なまえ以外に懐いてない感じ?」
「あー、そうかもね」
「それに比べて私のバッ君たら誰にでもでれでれしちゃうんだから」
「まだいいじゃない。私のばーくんは…」
そうやって和気藹々と我が子自慢に話題が移っていくのを流し聞きしつつ、私はボール磨きでもしようかと鞄に手を突っ込んだ。見た目が可愛いこの鞄は見かけばかりで機能性にあまり優れてはいないので道具やボールを一つ探すだけでやけに時間がかかる。私が上手く使えるように工夫すればいい話なんだろうが、ついつい後回しにしてしまうので、きっとこれからもこの鞄を使いやすく工夫することはないのだろう。そろそろ鞄を買い変えるのもいいかもしれない。鞄なんて使えればいいのだ。
あとでデパートにでも行って値段でも見てみようかと思案していると、服が弱く引っ張られる感覚がして、ふと振り返る。そこにはポフィンを食べ終えたバクフーンが私を見下ろしていた。
「ん、ポフィンのおかわり?」
口の端にこびりついていた食べかすを指でとってやりながら問うと、バクフーンはふるふると顔を左右に振り否定を示した。それから何か言いたげな表情で私を見る。こんなバクフーンは初めて見る。
「……もしかしてさっき言われたこと気にしてんの?」
びくりと一気に表情が強張ったのを見て確信する。何でもない顔してたからてっきりどうでもいいのかと思ってたのだけど。
「まぁ確かにお前は他のバクフーンよりは愛想ないかもしれないけどさ、」
服を掴んでいる手を解き、ぎゅっと握り締めてやる。もふもふとした毛並みが私の手とよく馴染んだ。バクフーンはじっと私の言葉を待っているのか押し黙っている。彼女達の笑い声が私とバクフーンの間を駆けていった。
「ポケモンだって人間みたいに個性がない子なんていないし、皆が皆同じじゃ味気ないじゃん。バクフーンは今のままでいいし、私はそのままのバクフーンが好きだよ」
だってこんなに私のポフィンを美味しく食べてくれる可愛いバクフーンなんて、お前以外にいないもの。
バクフーンは目を細めて、愛しいものを見るように私の頬をぺろりと舐めた。
心はみずみずしく愛を臨む
遅くなってしまってごめんなさい。リクエストありがとうございました!