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いつの間にか闇に飲み込まれてしまった路地裏を歩いていると、身に凍みる位の冷たい風が容赦なく私と肩にくっついたクルミルを通り抜けていった。クルミルはハハコモリに作ってもらった服があるものの、薄着でアパートを出た私には体に堪えるもので、思わずその身を震わせればクルミルは心配そうに一声鳴いた。

「だいじょぶだいじょぶ。こんな格好で出てきた私が悪いから」

それでもクルミルは心配してくれているのかゆっくりと肩から首筋に移動すると、ぴっとりと体をくっつけてきた。ほんのりとクルミルの体温が伝わってくる。「ありがとう」と頬を撫でてやると嬉しそうにきゅうきゅう小さく鳴いた。その声も姿も愛らしく、思わず顔が綻ぶ。あまり長いとはいえない付き合いだけれども、どうやら私は早くもこの子に骨抜きにされているようだった。

路地裏を抜け、通りに出るとアイス売り場がうっすら目に映ってくる。夏になればいつも売り切れになってしまうヒウンアイスもこんなに寒くなると完売はすれど、売れるスピードはいつもより少し落ちてしまうのだ。数えられる人数ほどしかいない列に並ぶと、すぐに私の番がやってきた。箱入りの物が売れ残っていたのでそれを購入すると、レジ担当のお姉さんは嬉しそうに笑ってお釣りを渡してくれた。こんな寒い中外で営業も辛いだろうに大変そうだ。


手首にアイスが入った袋をぶら下げながら手をポケットに突っ込みながら来た道をゆっくりと戻った。明日は何もしないでだらだら過ごす予定だし、第一することがない。クルミルは相変わらず私の首にくっついてくれていたが、アイスが気になるのか鼻を鳴らしている。


「帰ったら炬燵に入って食べようね」


こくりと頷くのを確認して、ゆっくり歩を進める。夏じゃないから速く歩かなくともアイスは溶けないだろう。寒い時期に炬燵に入りながら食べるアイスは格別だということをまだこの子は知らない。クルミルと過ごし始めた季節はまだ一つ二つと数える位しかないから、いっぱいこの子に楽しさを教えてやりたいのだ。

「もっとたくさん楽しいことしていっぱい過ごそうね」

クルミルは小さな手足を力いっぱい広げると、小さい体で私を抱きしめた。一年後の寒空の上にたくさんの輝きが広がる頃、私達はきっとこの日のことを思い出して懐かしみを感じるのかもしれない。そう思いながら、炬燵が置いてある我が家へと足を進みいれた。

ポストイットの星
title:Prelude