羊飼いの憂鬱 | ナノ
「毎回思うがこのウンババとかいう輩が邪魔だ。雑種、何とかしろ」
「いや、無理です。どうしてもというなら開発会社に直訴して来て下さい」
「ふん、この役立たずが…」
「…っていうか…タマゴぶつければいい話でしょう」
「…!!」
「えっ、今までどうやって進めてたんですか」
「そのようなもの飛び越えてきたに決まっておろう」
「え?!ウンババって最後の一箇所以外飛び越えられましたっけ…」
「我に訊くな」

「………」



「この小鳥も鬱陶しくてかなわん」
「そういえばここのステージに白色の子いるんですよね」
「ふん。白い奴など我には不要よ。我にはこの金色さえいればよい」
「いや、これ金色じゃなくて黄色ですから」
「黙れ」
「白色連れていかないんですか。残機増えますよ」
「…場所を教えろ」

「………」



「おい、この巨大魚はどうやって倒すのだ?!」
「いやぁ〜残念ながらこれ倒せないんですよね…まあ精々頑張って逃げて生き残って下さい」
「…王たる我が敵に尻尾を巻いて逃げ帰ろと言うのか?」
「メロン三十個はクリア条件の最低ラインであることに変更は無いですからね、逃げながらメロン捜索頑張って下さい」
「チッ……貴様、見ておれ。我がこの巨大魚を倒し、瓜も何もかも全て食い荒らしている瞬間をな!」
「いや、メロン以外食べるともうアウトですからね。ハイスコア狙うなら食べちゃ駄目ですよ」

「………」



「なっ?!何故我がこのような知性の欠片もないような魚如きにやられなければならぬのだ!!」
「あーあ…だから言ったんですよ。そこのハテナシャボンには気をつけて下さいねって」
「黙れ黙れ黙れ!この際だ、白の歩兵を召喚するぞ!」
「黄色以外の子を使えばいいじゃないですか…」
「金色以外の色は我には全く持って釣り合わぬ」



「………あの…英雄王、ナマエ。いつも貴方達はこれをやっているのですか…?」


ピラフが入った容器を片手に、セイバーさんは少し戸惑うような表情を浮かばせてテレビの前を陣取っている私とギルガメッシュさんを交互に見つめてくる。
いけない、ゲームに夢中になってた所為でセイバーさんの存在を忘れていた…。
コントローラーを握るギルガメッシュさんにゲームを任せてセイバーさんに向き直る。

「ええ、毎夜こんな感じですけど」
「私がいるが故に…意図的にこのようなことをしているのでは…」
「そんな訳ないでしょう…もしそうだとしたらもっと違うことしてますよ」
「では…本当に、これが貴方達の日常なのですね」

安心したような、何だか哀れなものを見るかのような、そんな顔だ。古代から伝わる英雄王が電子機器に夢中になるなんて、そりゃあ微妙な心境にもなるだろう。ゲーム一つでムキになる英雄王とか、言葉通り幻滅ものだ。それを提供してしまった私も私だが。現代における庶民の娯楽と言われて思いつくものといえば、やはりこういう物が王道だと思い、昔片付けたハードを引っ張ってきたり、新しいハードを買ってきたりと最近の私の部屋には新から旧までのハードが勢揃いしてしまっている。良いのか悪いのか。とりあえず電気代が心配ではある。


ふと壁にかけてある時計を見上げれば、そろそろ静かにしなければ近隣の迷惑になりそうな時間帯になってしまっていた。ゲームをやり始めるといっつもこうだ。特にギルガメッシュさんが来てからの休日前夜は毎度こんな感じなのでいい加減直すべきかもしれない。


「……あ、そういえば。セイバーさんの寝床ですけど、良ければ私のベッドを使って下さい」
「ナマエ、貴女はどこで寝るのですか?」
「ソファーで寝ようかと」
「そんな!私がソファーで寝ます。私は突然押しかけた身。そのようなこの家の主人の寝床を奪うわけには──」
「主人がいいって言ってるんですから気にしないで下さいよ…あ、ギルガメッシュさん。居間に布団持って来ますけどいいですか?セイバーさんと一緒の部屋はまずいですし」
「何を言うか。我はセイバーと床を共にするのだ。恋い慕う二人の邪魔をするでないわ」
「持ってきますね」
「……ちょっと待ってください」

腰を上げた瞬間に、静かでありながらも力の入った声に、私とギルガメッシュさんはセイバーさんに視線を寄せる。
セイバーさんは俯いており、どのような表情を浮かべているのか窺い知れないが、何故か怒気を含んでいるようなその雰囲気は私と古来の王がどうしたのかと思わず顔を見合わせてしまう程だった。え、何か私地雷踏んだようなこと言ったかな。それともギルガメッシュさんの発言に遂に怒りが爆発したのか。


「私の考え過ぎであると思うのですが…一つの部屋で就床を行っているわけではないですよね?」
「! もしやセイバー…嫉視しておるのか?先刻も言った筈だが、我はこのような雑種と床を共にしていても体一つ触れてすら──ぐおっ!」
「ナマエ!!貴女には性道徳というものを分かっていないのですか?!何故このような男と共に休んでおられるのか!!これはシロウに報告です!」

カッと目を見開いてそう叫ぶセイバーさんは拳を震わせていた。
え、えええ…一番はじめにギルガメッシュさんと一つ屋根の下で暮らすことは良いことかもしれないと言ったのはセイバーさんじゃん…。

そう言えば「庶民の娯楽の仕方を享受させることを目的として共同生活を送ることを推奨したのであって、決して二人一緒に寝かせることを許可したわけではありません!そもそもナマエはそのようなことに道徳的な思想をちゃんとお持ちしていると思っていました!」と噛み付くように言われる。この状態じゃ幾ら衛宮に言わないよう頼んでも聞いてはくれないだろう。衛宮怒ると怖いんだよな…自分だって沢山の女と半ば同棲状態にあるくせに人のことについてはやけに首を突っ込んでくるのだから不思議である。

「衛宮のお説教かぁ…」
「…ふふ、良い様だな、雑種」
「英雄王、貴様にも一度道徳がどういう在り方であるか私が肉体的制裁方法を使って教えてやろう」


その瞬間ギルガメッシュさんの端正な顔面にセイバーさんの小さな拳がめり込んだ。