羊飼いの憂鬱-Memo | ナノ

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人が一人、地に伏せていた。
無防備に手足を伸ばし、その場に身を下ろしていた。


行き倒れの人が倒れていた。



──いや、行き倒れの人、と決め付けるのは良くない。もしかすると、人生に疲れ果て、ただただ何かをするという気力すら湧かず、自暴自棄になって地面で寝ているだけかもしれない。はたまた、酔い潰れて寝ているだけかもしれない。こんな早朝から倒れているのだから、昨日の晩に飲みに行ったきり、帰るのが億劫になってその場で寝てしまった人なのかもしれない。可能性なんてものは、無限大だ。「人間が倒れる」というただ一動作、それだけでも幾らでも理由が考えられるのである。

人間とは厄介な生き物だ、などとぼやきを完結させたところで、果たしてこれは「本当に人間なのだろうか」と、私は微動だにしない者の姿を見下ろした。

今日は非番だ。
朝一番に、誰よりも早起きをし、朝の空気を吸いながら散歩をしようとしていた私の予定をぶち壊すかのように前に立ち塞がる──実際には倒れているが──この人は、奇妙だった。俯せだから、顔は見えない。ブラウンの髪に、アーチャーさんよりも濃い褐色の肌が白くひらひらとした装束から見えている。褐色の肌に、とてもスタイルの良さそうな高身長。日本人ではないことは、一目で分かった。

何故奇妙なのかというと、手に弓を持っていたからだ。白くて、とてもとても長い弓。恐らく、この人よりも長さはある。弦の方は、青い。青の弦なんて、初めて見た。弓には詳しくはないが、何だかとても不思議な…不思議と目が留まるような、惹かれる物だ。弓には欠かせない弓矢の方は、見る限り持っていないようだった。そんな弓の持ち主である彼──身長や体系からするに男だと推測出来るが、もしかすると彼女かもしれない──は、弓をしっかりと握りこんでいる。きっと、大切な物なのだろう。