手を伸ばせば瞬く間に染まってしまうような水縹が続く空。何の澱みもない無垢なそれをぼんやりと眺めていると、不意に届いた、熱の鳴る音。つられて振り返ると、矢先、身体をとろかすような甘い匂いが鼻をつついた。


「パンケーキだ」


誘われるように、ゆったりと歩を進めると、黒が鮮やかなフライパンの中で静かに揺蕩うパンケーキが瞳に映った。それに思わず嬉々として声を上げると、愛おしく大きな手が私の腰をそっと撫で、そして、そのまま横から抱くように引き寄せられる。香るパンケーキの香ばしい匂いと、大好きな彼の匂い。


「サボって意外とこういうの得意なんだね」
「意外とって何だ、意外とって」
「あ、蜂蜜たっぷりかけてね」
「太るぞ」
「うるさい蜂蜜」
「はいはい、分かったよお姫様」


しょうがないなあ、といったように彼は苦笑して、私の腰をぽんぽんと優しく撫でた。
それを皮切りにして、二人の間に暫しの沈黙が流れる。朝露のような清らかさを思わせる小鳥のさえずり。フライ返しがパンケーキをつつく音。そして、彼の手から伝わってくるあたたかな愛。至福とは、幸せとは、まさにこういうことを言うのだろう。自然と口元が綻ぶのを感じながら、私は「天気も良いし、これ食べ終わったら散歩でも行こうよ」と、そう零した。
とにかく今日はサボを独り占めしたいのだ。
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