「サボ、今日の夕飯何だっけ」
卵焼き。
「あ〜確か唐揚げって言ってたな。鶏肉が安売りしてたんだと」
たこさんウインナー。
「そりゃ上々。腹空かせて帰らねえとな」
海老フライ。
「じゃあ久々にどこかで遊んで帰るか。お前も行くだろ」
お前、というのは私のことだろうか。向けられる期待を滲ませた瞳に、私は行かないと首を横に振った。すると、分かりやすく唇を尖らせる二人。……随分と気に入られてしまったものだ、と肩を落としながら溜息を吐くと、「お、何だ。食欲無いのか」と大きな手が伸びてきた。
「ねえさっきから当たり前のように私のお弁当のおかず取っていくんだけど、何なの君たち」
今まさしく私のおにぎりを奪おうとしていたそれを引っ掴みながらそう咎めると、二人は顔を見合わせて、わざとらしく首を傾げた。腹立つ。
「だってお前この間ダイエット中だって言ってたじゃねえか」
「そんなこと一言も言ってないんだけど」
「ていうかお前卵焼きの味変えただろ、俺甘いのが好きだったのに。なあサボ」
「おう」
「何で私が二人の好みに合わせなきゃなんないの」
「俺の飯は俺の物、お前の飯も俺の物」
「急にジャイアニズムかましてくるのやめてくれる?」
席替えをしてからというもの、至福だった筈のお昼休みの時間が地獄と化した。おかずを瞬く間に奪われて気付けば中身は空っぽ、なんてことがここ毎日ずっと続いている。その度に「俺等食べ盛りだからと私を宥めてくるが、確実にその範疇を超えているだろう。何が食べ盛りだ、お前らのは只の牛飲馬食だ。
しかし、ここで怒鳴っても二人には効かないし、体力の無駄だということを嫌と言うほど知っているので、私は込み上げる怒りを抑えつつ、購買でパンでも買ってこようと財布を取り出した。その矢先、
「これやるよ」
二人から差し出されたのは、未開封のパンとジュース。え、と顔を上げると、そこには二人の眩しい笑顔があって。
「お前の弁当食っちまったからな。そのお詫び」
「そんで今日の放課後空けとけよ?何か奢るから」
「え、あ、ありがとう……」
これを受け取ってしまえば、私の放課後は彼らのものとなる。けれど、空腹には逆らえないのでありがたくその厚意に甘えることにした。
ていうか待って。何で私がお礼を言う立場になってんだ。