あの二人には関わるな。

潜むような声音で紡がれるその言葉。それは歩む彼等の背に放たれ、雫のようにぽつぽつと零れていく。不良上がりのエースとサボ。単なる噂や嘘かもしれないのに、そう謗られ周りに怯えられる二人に私は密かに同情していた。しかし、それは去年までのお話。
進級して彼等と同じ教室に通うようになってから、元不良と評されても仕方の無いような二人の数々の素行を私は目撃した。遅刻早退の常習犯だし、他校の生徒と殴り合いの喧嘩をしている所を偶然見たこともある。それが原因でスモーカー先生に説教をされている所や、生徒指導室で正座をしながら何百枚もの反省文を書かされている所も。

あの二人には関わるな。

前まではその言葉に、そう囁く人たちに一種の嫌悪感すら抱いていたのに、今ではそれが正しかったのだと、席替えにより彼等の間に挟まれてしまった私は嫌と言うほど思い知ることになる。




「また?」


目の前に差し出された綻びの目立つシャツ。その手を辿っていくと、案の定、お馴染みの二人が人懐こい笑みを湛えていた。幼い子供のようなあどけなさを残す表情を彩るそばかすに、どこか温かな雰囲気がただよう男、エース。陽のような煌めきを放つブロンドの髪に、爽やかという言葉を体現したような男、サボ。二人は私の溜息に大きく頷きながら、「頼む」とご丁寧に声を揃え、私の肩をぽんと撫でた。
席替えをして幾日か経った頃、喧嘩によってぼろぼろにくたびれた彼等の制服を見て、直そうか?、と声を掛けたあの時から、どうやら私はこの二人に気に入られてしまったらしい。それからというもの、喧嘩や遊びによって制服諸々を駄目にする度に私の元へ来るようになった。それだけではなく、前の席から回ってきたプリントを渡すふりをして渡さなかったり、私のお弁当のおかずを勝手に奪ったり。端から見ればいじめである。しかし、そんな二人と接してみること一週間。気付いたことがある。彼等はただ本能のままに生きすぎている普通の男子高校生だ。素行が悪いのがちょっとあれだけど。


「いやいつも悪ぃな母ちゃん」
「母の日は盛大に祝ってやるからな」
「誰がお前らの母ちゃんだよふざけんな」


ついでに、私の口も悪くなったような気が。


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