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陽子さんはお買い物がとっても上手だ。本当に必要なものを、そのとき必要な分だけ買う。僕なんかはついつい欲しいものをどんどん篭に放り込んで、あとからすごく後悔するのに、陽子さんに限ってはそんなことは絶対にありえないのだ。僕はそれが不思議で不思議でたまらない。どうして陽子さんはお買い物の魔力に取り付かれてしまわないんだろう。だってお店に入った瞬間に出迎える陳列棚の端から端に、あんなにたくさんのものが所狭しとひしめきあって、それが全部きらきらしてみえるのだ。思わず手が伸びちゃうのは仕方ない、よね?って陽子さんに聞いてみたら、陽子さんはふふふと笑った。そうね、欲しいものは仕方がないわね。仕方がないから、そういうときは、全部篭に入れちゃうのよ。僕はちょっとびっくりした。そんなことしたら意味がないよ陽子さん、だってなんだか魅力的なのに、手に入れちゃったらきらきらとかわくわくとか、しぼんじゃうんだ。それで後からやめておけばよかったって、すごく悲しくなるんだよ。そう言ったらやっぱり陽子さんはにこにこ笑っていた。篭にいれたらすぐに買ってしまうわけじゃないでしょう、一回手元に置いてから、ちょっと立ち止まって考えるのよ。一つずつ手にとってみて。これを手に入れて、あなたは何を得るのかしら。いつか必ず必要になるならそのままで、断言できないときはさようならしましょう。そのときどんなに欲しくったって、それは一種の熱病みたいなものだから、落ち着いて考えて、それでやっぱりどうしようもなかったら、他の何でも代わりにならないようなものなら、そのときは思い切って買ってしまったらいいと思うわ。通貨は確かに大切なものだけれど、貯めているだけじゃまったく無意味というのは、あなたも重々承知していることね。すらすらこんなことが言える陽子さんはすごい。僕にはそれはほんの少し大変なことかもしれないけど、陽子さんが教えてくれたんだから、きっとできるはずだ。やっぱり陽子さんはにこにこ笑っている。でもそんな陽子さんの笑顔がちょっぴり寂しそうに見えたのは、僕の見間違いなんかじゃないと思う。陽子さんは言った、わたしも昔はなんでもかんでも欲しがって、あんまり強欲だったから、ちょっと詰めすぎちゃって、せっかくつくったものを壊しちゃったの。それがとっても悲しかったから、以来本当に必要なもの以外は切り捨てることにしたわ。さようならは、どんなに残念でも、いつだって仕方のないことね。そっかあ。陽子さんが悲しい顔をするから僕まで悲しくなって、でも陽子さんが僕の頭をそっと撫でたから、もっとそうしていて欲しくって、僕は黙って目をとじた。陽子さんはいつか僕ともさようならをしてしまうのだろう。陽子さんはやさしいから、そのときはきっと僕にとどめをくれる。陽子さん、陽子さん、陽子さん。そうなる前に、また一緒にお買い物がしたいなあ。



陽子さんはお買い物上手
2011.08.07




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