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※太陽→淑女





「恋に落ちてはいけなかったんです」

"月"、貴方なら解るでしょう。先代管理人を愛してしまった貴方なら。僕は正直なところ、全く理解出来なかった。貴方も、それに"魔術師"もね。愚かだとさえ思っていました。我々はタブロウ。創造人に創られた人にあらざる者。見目こそ近い、けれどこれはいわば一枚の皮膚でしかありません。一皮剥いでしまえば、生物でさえない。そんな解りきったことは今更意識に上らせるまでもないことです。人間と蛙は恋をしません。人間と機械は恋をしません。人間とそれ以外、種を残す残さないに関わらず、恋愛なんてものは成立しない。わかっていたんです。いえ、わかっていたつもりでした。それなのに、僕は恋しいと思ってしまった。あの自由で何物にも縛られない、勇猛果敢で、非力な少女を。
滑稽でしょう、笑っていいんですよ。軽蔑しても結構、僕がしたようにね。本当に馬鹿馬鹿しい。よりにもよって、人間に。
愛ではない。主を慕い敬い慈しむ、愛ではないんですよ。焼け付くような乾き、心臓を握り潰してしまいたくなるような衝動です。サツキの心象力で具現化しても、心の片隅にいつも彼女の笑顔があります。私の今の主は唯一無二サツキのみでなければならず、他のことが入り込む余地など一切ない、あってはいけないというのに。頭が可笑しくなりそうだ。貴方、この意味がわかりますか。主に付き従うことが最上の喜びである我々の、存在価値を覆すこの恐ろしさが。主以外を恋う。ある意味に置いては、"死神"よりも質が悪いでしょう。
足りません。僕は、彼女から与えられるものだけでは到底満足出来なくなっているんです。強欲にも、僕は全てが欲しい。彼女のお気に入りのうちのひとつでは我慢ならない。僕にとっての彼女であるように、僕だけが絶対になりたい。気を抜けばそんな欲望が鎌首をもたげてしまうんです。閉じ込めてしまいたい。けれど飛び回る駒鳥を眺めていたい気もするから、僕はほとほと困っているんですよ。後悔しています、彼女を待っていたこと、住家から出奔してしまわなかったことを。残っていればいつか必ずタブロウは再び彼女の持ち物に戻り、そしてその時、真っ先に呼び出される下僕が自分であるということを確信していたんです、僕はね。そしてそれは事実となりました。
勿論後悔していないことだってありますよ。タブロウに残ったことをね。あの夜、僕がタブロウにいなければ、貴方は彼女を殺していたでしょう。それを思うとぞっとします。貴方は大した甘ちゃんですが、下手をしたらうっかり彼女を刺し殺していたかもしれないし、どっちみち放って置いたら失血死です。ああ厭味じゃありません、厭味なんかじゃありませんよ。ただの事実ですから。
ああ、何故彼女が管理人なのでしょうね。いっそ彼女が何も知らないただの少女であったなら!我々は出会うこともなく、彼女は幸福な人生を歩み、僕もこれ程までに苦しみはしなかったでしょうに。


「"太陽"、見え透いた嘘はおやめなさい。貴方本当は、少しだってそんなこと思っていないでしょう。」


おや、ばれてしまいましたか。


(にぃと唇を歪めた"太陽"に、私はもう何も言わず、手入れしていた薔薇の首をばつんと切り落としました。彼を責める資格など誰も持ってはいないのです。私も、おそらく、すべてのはじまりである我らが父でさえも。)



絶望を飲む覚悟はあるか
2011.08.07





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