いいこの末路(inzm) | ナノ






道端に落ちている虫が気持ち悪かった ぎょろりとした目玉だ 身体は乾燥させた泥の色をしている 背中が丸くなって仰向けだ 筋の脚がばたばたと無様に宙を掻いている 正常な体勢に戻ることが出来ないのかもしれない 逆転した矮小な脳味噌はさぞかし混乱していることだろう 或いは何も考えていないのか 体液が集まって破裂してしまえばきっと楽しい 晒された腹は半透明だった うっすら藻の色をしている ような気がする 放って置けば陽光に焼かれてじきに死ぬだろう ばたばたばたばたばたばたばたばた 機械的に動く関節は固そうだ ばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばたばた ぐしゃり わたしはその上に足の裏を置いた 靴底から異物感が伝わって来る 想像していたよりも柔らかい 次の一歩を踏み出してそのまま歩いた


暫く歩いてわたしは虫を踏んだことを思い出した すっかり忘れていた 右の靴を脱いで裏を見た スニーカーのゴムの目に残骸が詰まっている 脚か腕かは知らない 腹の中身かもしれない 体液と一緒にぎっちりと挟まっていた 気持ち悪かった わたしは手を離した 重力に従って落ちていく薄汚れた空色はアスファルトに跳ね返ってそのまま転がっていった ついでに靴下も脱いだ 地面に降ろした右の足の裏が熱かった 四歩歩いて左も脱ぐことにした 歩き難くはない が、どうにもバランスが悪い 気持ち悪くて堪らない 固いゴムと布の塊から足を引っこ抜いてやっと満足した それにしても日差しが暑い


わたしの家に帰ったら晴矢がいた 仕方がない あの人がくれたここは晴矢の家でもある 晴矢は入口から十歩の居間にいた ただいま おう 買ってきたかよ 雑誌から顔をあげた晴矢はわたしの手の辺りを見た わたしは何も持っていない そのままわたしの足元を見る 晴矢の喉の奥から は と短い音がする 次にわたしの顔を見てハアアと言った 語尾が上がっている 疑問形だ 晴矢は目を吊り上げて言った お前、足、なんだよそれ わたしは答えた 知らない 晴矢は寝そべっていたソファから起き上がった 靴は わたしは答えた 知らない 晴矢はまたハアアと言った ただし語尾は下がっている きっとため息だ おい汚ねぇ足で家上がってくんなよ風呂で洗ってこい風呂 わたしは答えた ああそうする


風呂で湯をかけながらわたしは足の裏に酷い水ぶくれが出来ていることに気が付いた




頭がおかしい人
2010.09.10




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