inzm11 | ナノ






 源田は四つ葉のクローバーを見付けるのがうまい。そりゃあもう異常にうまい。部活の休憩中とか終わった後とか、グラウンドの端っこで群生してる三つ葉の塊にボールが突っ込んだときとか、ボールを取るついでに四つ葉を二つも三つも引き抜いてくる。あそこには結構いっぱい生えてるんだって、四つ葉って割と普通に生えてるんだぞって、思わず殴りたくなるような普通の顔でのたまいやがる。自慢じゃないが俺は一度も見つけられた試しがない。それを部活が始まる前にぽろっと話題に出したらなんでかその場に居合わせた全員で四つ葉の捜索大会に発展した。佐久間が無駄にやる気だして地面に這いつくばっててひいた。源田は涼しい顔してすいすい摘んでく。俺はめんどくさくて初っ端から探してなかった。そしたら成神がアンタって注意力散漫ですもんねだから見つけらんないんスよアハハだっせぇ!とかなんとか突っ掛かってきてもっとめんどくさくなった。うぜぇから辺見がやっと見つけたとかはしゃいでたのを千切って三つ葉にしてやったら大袈裟に騒がれた。まじで涙目なってやがるなにこいつキモい。成神があからさまに殺意向けてくるから五条が辺見に自分で採ったやつ差し出してんの顎で指したらそっち飛んでったけど。デコ先輩大人気じゃねーか。そうこうしてたら意外にも万丈が四つ葉を着々と見つけてた。狂犬が聞いて呆れる。大伝まで馬鹿みてーにでかい指でちまちま摘んでたからちょっと探してみたけどやっぱ見つかんなかった。他の面子は飽きたのか諦めたのか洞面はきゃらきゃら咲山は黙々と冠編んで、頭に乗っけて似合う〜とかいやお前らそういうのいいからサッカーやれよ。ちなみにその意味不明な集団行動は顧問に呼ばれてたとかなんとかで遅れてやってきた寺門の疲労しきった鶴の一声であっさり解散した。一体何をやってるんだお前達は…。んなこと俺が一番聞きたい。
 源田の手に握られてた葉っぱの束がすげー量だったから、さっさと捨てろよそれって言ったらいや勿体ないだろうと返された。いや雑草に勿体ないとかねぇから。おーいみんな、これいらないかー?その一声で部室に向かってた奴らがわらわらと寄ってくる。お前見つけすぎだろそれもうキングオブゴールキーパーっつーかキングオブクローバーハンターに改名しろとかやっぱり源田『幸』次郎だからだな!とかよくもまあたかが草でそこまで盛り上がれるもんだといっそ感心した。源田の手元からどんどんそれが貰われていくのを俺は離れたところから見るともなしに見ている。
 粗方売れた後、源田がこっちを向いた。そんで近寄ってくる。不動も貰ってくれって押し付けられて冗談じゃねぇって突っ返した。んなもんただの草でどんだけ有り難がろうと地面から抜かれたら生ゴミだ。しかも人間で言うと本来二本のところにもう一本腕が生えている。うげ。そう言ってやったら存外真剣な目をした源田が目の前にいた。なあ不動、どんなに小さくても幸せなことって実はそこかしこにあるんだ。天気がよかったとか、信号に引っ掛からなかったとか、四つ葉のクローバーを見つけたとか、毎日サッカーできるとか。くだらなく見えてもそれって本当はすごいことなんだって、不動、お前は気付いているか。うるさいうるさいうるさい!なんで単なる暇潰しの話題が人生論に発展してんだよ。源田はほんとに空気を読まない。むしろ読めない。ちょっとした冗談になにマジになっちゃってんのだっさ!しらけた。テンションさがった。だからそれを受け取ったのは源田があんまりにも強い力で押し付けてくるから、突っぱねる気力がなかっただけで、別に欲しかったとかそんなんじゃない。
 その場で捨てたらまたうるせぇことになるから帰ったら即行捨ててやろうと思ったのに、気が付いたら十年たった今でも持っていて、源田は相変わらず些細な幸せを見付けるのがうまい。



少年と少年の共生論
2011.06.11 title by joy




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -