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※成→辺





先輩は、何もしなくていいですから。女の人を相手するつもりでいてくれたらいいんです、俺が全部します、全部しますから。ごめんなさい、先輩が俺のことそんな風に見てないのわかってます、先輩、先輩。俺先輩が好きです。好きなんです。勘違いだとかそんな非道いこと言わないで下さい、本当に本当なんです。先輩が俺をただの後輩だと思っててもいい、そんなこと知ってます、それが当たり前だから、これは全部俺のわがままなんです。先輩は普通で正常、間違ってるのは、異常なのは俺です。俺多分頭おかしいっていうか、脳みそにはまってたネジどっかに落として来たんだと思います。でもそんなこと言ったって先輩が好きなのは本当だから、ごめんなさい。好きになってごめんなさい。今から俺先輩に非道いことします。先輩は被害者なんです、俺が無理矢理やることだから、間違ってるのは俺だから。先輩。一回だけ。たった一回だけでいいんです。それで諦めますから。もう近付きませんから。軽蔑してもいいです、俺は最低な人間だから、その通りだから、だから、へんみせんぱい、いっかいだけ、


俺の上に跨がった後輩がぼろぼろ泣いている。普段くそ生意気で小馬鹿にしたような言動ばっか繰り返す癖に。涙が鎖骨にあたって服の内側に滑りこんでくる。冷たい。顔はもうぐっしゃぐしゃだ。情緒のカケラもない天井の電球が、電気を食いつぶしては煌々と輝いている。こういうのって普通逆光で表情は見えない、とかそういうもんじゃねーの、?。まあ狭い生活空間でそんな雰囲気が出るはずもない、このベッドだって普段はこんなことじゃなくて、普通に持ち主に睡眠を与えるために働いてるんだろう。
何があったって、要はつまりそういうことだ。なにお前ホモなのとか、んな無神経なことが言える空気じゃない、こいつ本気だ。ていうか泣いてるし。まったく全然少しもそんなことに気付かなかった俺は多分こいつの言う通り普通なんだろう、だって普段そんなこと気にしながら生きてる奴とかあんまりいないんじゃね。同性の後輩に実は恋愛感情持たれてました、とか。いや、ここで勘違いしないで欲しいのは、別に俺はそういう性癖を持った方々を馬鹿にしてるとかそんなわけじゃないということだ。そういう方々が現実にいるのを俺は認識してるし、まあ世の中広いんだからそういうこともあるよなとは思っていた。ただ俺には縁遠い話だと思っていただけで。まさかだろ、まじで。いやいや。だって、なあ。
そんなわけで内心焦って焦りまくって逆に段々冷めてきた俺はうっかり地雷を踏んだ、踏まなくても遅かれ早かれこうなってた気はするけど、間違いなく最後の最後でストッパーをぶん投げたのは俺だ。言ってはいけないことを言ったような。まだもしかしたら戻れたかも知れないその不安定な均衡をあっさり崩したわけで。


お前はさ、本当にそれで満足なのか?


やっぱりせんぱいはひどいひとですね、すきです。いっそヤケを起こしたみたいに泣き笑いしながら降りてきた唇は、そんなに柔らかくなかった。女と思えったって無茶があるよなあ、こいつ男だし。悲しいかなそれは純然たる事実だ。
性別なんて関係ねぇよ、とか言えたらかっこよかったんだろう。お前が男でもいいってさ。けど俺はやっぱり平々凡々な普通人間だから、マジョリティの輪を外れる勇気はないし、こんな状態の今だって、成神を真実そういう目では見れない。俺の名前を呼んで、好きですとごめんなさいをひたすら繰り返すばかりの後輩に、俺の脳みそは異常に正しく作用した。紫に埋まる視界で、場違いにも俺はサッカーしか連想できないのだ。
ただあまりにもこの後輩が必死に縋り付いてくるもんだから、なんだか俺まで泣きそうになってしまった。愛せなくってごめん。空気を揺らす前に弾けたそれは喉の奥でぶくぶくと泡立っている。とどめの言葉さえ刺してやれない俺を、どうか許して欲しい。



溺れる魚
2011.01.04




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テーマ「人外ファンタジー」
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