にっき


【ジャッホ】
ジャックとホークの普段の風景
2020/07/15

俺……嫉妬してる。
こんな気持ちに気付いたのは
ジャックを目で追い始めてからすぐのことだった。

ジャックはとてもモテる。
それは女の子からだったり、突き抜けて明るくていいヤツだから同性からも。村人からの信頼も厚くて、動物や、自然そのものから愛されているような男なんだ。

ジャックのことを気にするようになってから、ずっと見ていたから分かるんだ。ずっと見ていることを、ジャックが知ったら気味悪がられるかも知れないから

絶対に口外できない……
俺の秘密だけどな。


「よぉ、ホーク」
「あ、……」
「今日は早いとこ切り上げて飲みに行こうぜ♪」
「……俺の方はまだ作業が終わりそうにないから、今日は先に……」
「毎日毎日まじめだなーホークは!少しくらいサボったっていーじゃねぇか♪」
「なっ、だめだ。そんなことはできない」

ジャックはモテるけど
少々不真面目なところがあると思う……。彼が言うように、俺が真面目すぎるだけなのかも知れないけれど
仕事をサボるなんて俺にはむりなんだ。世話になっている作業場に迷惑がかかるからな、それに、俺は職人だから

その、それなりにこの仕事に誇りを持っているから

だから、仕事に不真面目なのは、いけないんだ。

「わかってるって。そんな深刻な顔すんなよ!からかってみただけだって♪」

「……からかうなよ」

そう、だって
俺は冗談が通じない、カタブツな男だからさ。

仕方ないんだこれは。
なおせるものじゃないんだ。

「なぁ、」

ジャックが何かを言おうとしたとき、俺たち以外の誰か別の存在を感じた。ふとその気配の元へ目を向けると
小包みを両手にした小柄な女の子がそこにいた。その子はジャックの元へ駆け寄って、

「ジャックさん!」
「お?どうした、俺にようかい?」
「はい!あのっ……これを渡したくて」

その小包みを差し出した。
俺は、俺には関係のないことだと、二人から視線を逸らした。

「へぇ、なんだろな。ありがたく頂くよ♪ わざわざ渡しに来てくれてありがとな!だいじにするよ♪」「はいっ、嬉しいです!それであのっ」
「またいつでも会いに来てくれよな♪それじゃまたな!」
「あっ、ちょっと……待っ!」

女の子の慌てた声が遠ざかっていく。

なんで俺まで巻き添えに……っ
ジャックは俺の腕をつかんで、走り出していた。だから俺もわけもわからずに走っていた。

「おいっジャック!」
「少しだけ付き合えって」
「こまるっ。作業場に戻らないとっ!」

俺は叫んでいた。
モテて……自分勝手なジャックに、少し苛立っていたのかもしれない。

裁縫通りを抜けて、森の入り口まで向かおうとしていたので俺は手を振り払って立ち止まった。

そうしたらジャックも止まって俺に笑顔を向けて……。何か企んでいるような悪い顔をしていた。

「二人きりになれた」
「!」

ジャックは誰にでもこんな風に
器用にしている。知ってるんだからな。

「なんだよ怖い顔して。悪かったよ、作業の邪魔してさ、でも、」
「……でも?」
「もっと俺のことも……見てくれよな。トンカチばかりやってないでさ」

もっと見てくれだって?
いつだって見ているさ。
ジャックは俺のこと、なんにも知らないんだからな……。


俺が黙っていると
背中を軽く叩かれた。

「やっぱり今夜飲みに行こうぜ!」
「……っ」
「おっと、もうサボれなんて言わねぇよ。ホークの作業がひと段落するまで待つよ」
「……〜〜っ、わかった……」
「おしっ♪んじゃ戻ろうぜ」

あんまり呆気なく言うもんだから、もう戻るのか、なんて考えてしまった。

ここまで走ってきたのは何のため……考えても意味がなさそうだ。

「ジャック、あの女の子はお前のことが好きなんだろ?」
「さぁな、しらねぇよ〜」

帰り道に話しながら歩く。

「だってプレゼントもらってたじゃないか」
「気になるか?」

だからどうして俺の話になるんだよっ
そんな風にニヤニヤ笑って、やめろよな。また俺のこと、からかうんだろ……。

「……」
「女の子はみんな可愛いよな。小さくて、ふわふわしてて、表情なんてくるくる変わってさ」
「よく見てるんだな……」

女の子すきなんだからな、ジャックってば。

「見てるよ。見てて癒されんだよな〜。だから俺は女の子がだいすき♪」
「よく言うよ……そんな恥ずかしいこと」

軟派なんだな、ほんと
女の子ばかり見てんだ。



「なぁ。お前ってもしかして俺のことすき?」

…………。
あまりにも。あまりにも唐突すぎて俺の思考回路は停止してしまった。何を言い出すんだ!?

「は、はぁ!?」
「や、もしかしてと思ってな」
「すっすきなわけないだろ!男なんだから!!」
「はは、そうだよな。そんな血相変えて言わなくてもいーだろー」
「なに言ってるんだよっ、ジャックは……ほんとにっ」
「ごめん。……けどお前ってばさ、嘘つけないヤツだろ。嘘つくと分かりやすいよなー」

冷や汗が止まらない。

「早口になって、よく喋る。やっぱ俺のこと好きなんだな、ホーク」
「やめろよ!」

俺は怒っていた。
声が震えていた。

俺の隠して大切にしてきた気持ちまで、いつもの調子で軽くあしらわれた気がして我慢がならなかった。

「俺にそんな怒ったってムダだぜ?俺は言いたいこと言って生きてんだ。ホークが真面目に生きたいように、俺だってこれでも真面目に生きてる。自分に素直に生きてんだぜ」
「あっ……」

俺は……
ひどい人間だ。ジャックのことを勝手に決めつけて、失望したりして。
ジャックは、俺よりずっとずっと
すごい人間なんだよな。

かなわないんだ、そう悟った。

「おれっ…………。ごめ……」
「なんで謝んだよー!だから、ホークは何でもかんでも思い詰めんなって。まぁそんなお前が好きだけどさ」
「…………」
「すきだよ、ホーク」


俺はどうしたらいいんだ……。


ホークの受難



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