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幸せの後先


12時を過ぎても美奈子からの連絡はなかった。

何だか落ち着かず、昼食も摂らないまま音を求めて点けただけのテレビを眺めていた新名は、とうとう立ち上がって部屋を出た。

アパートの前の通りを見に行くために。

連絡はないかと携帯電話を気にしながら通りを覗いた新名の視線の先に、なんともあっさりと美奈子の姿を見つけた。

結局、連絡をくれないままアパートに来た事もショックだったが、それよりも新名が衝撃を受けたのは、美奈子が一人ではなかった事である。

高校の時、美奈子をめぐって色々と揉めた相手、不二山嵐の姿が美奈子の隣にあった。

その上、美奈子は数時間前に見たあの暗い表情は錯覚かと思うほどに、明るく楽しげに不二山と会話しながらこちらに向かって来ているのだ。

新名は瞬きすら忘れてその場で凍り付いた。

何が起きているのか、理解出来るだけの余裕はない。

オブジェのように立ち尽くす新名の姿に、美奈子が気付いて小さく手を振った。

続いて、不二山も新名を見つけて軽く手を挙げる。

二人の様子を遠い世界の出来事のように感じながら、新名は身動き出来ないまま二人を迎えた。

「旬平くん?どうしたの?出迎えてくれると思わなかったからびっくりしちゃったよ」

明るい表情で言う美奈子と、午前中に見た美奈子とが、上手く繋がらない。

今日の用事とは、不二山に会う事だったのだろうか…?一体、何の用で?

あの暗かった表情を解消したのは、新名ではなく…。

「…メール…見なかったんだ…?」

硬い表情でようやくそれだけ呟いた新名に、え?と驚いて美奈子は慌てて鞄を探る。

「ごめん、電源落としたままだった」

そこまでして、邪魔されたくなかったというのだろうか。不二山と、会うのを。

自分の悩みを、パートナーである新名ではなく、不二山に打ち明けるのを。

「連絡しなくてごめんね。買い物もして来たからちょっと遅くなっちゃった」

電源を入れ、メールを確認した美奈子は不二山が持ってくれている買い物袋を指差した。

「あ、嵐くんごめんね。買い物まで付き合ってもらっちゃって、本当にありがとう」

不二山の持つ買い物袋を美奈子が手に取ろうとしたが、買い物袋に触れる前に不二山はそれを新名に差し出す。

「ほら、新名。ぼーっとしてないで持て」

新名は反射的に袋を受け取り、思っていたより重かったのに驚いて慌てて袋を持ちなおした。

「……どうも」

「あぁ。そんじゃ、俺はもう行く」

新名に応えてから視線を美奈子に戻した不二山は、早々に暇を告げる。

「え?お茶くらい飲んでいったら…?」

「いや、俺も行くとこあるから。じゃあな」

そう言って来た道を戻りかけてもう一度振り返り、不二山は晴れやかな表情で口を開く。

「二人とも、おめでとうな。これから頑張れよ」

「え?!あ、ありがとう。また連絡するね」

『また』連絡するというフレーズを気にしながらも、新名は不二山に短く礼を言って見送った。


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