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幸せの後先


何にしても、まずは話し合いだ。

電話やメールではなく、きちんと向かい合って、顔を見て話をしなければならない。

そのためには、やはり来週末まで待ってアパートでじっくりと、というのが望ましい。

だが、話をすると言っても何をどう話したらよいのか、新名には検討もつかなかった。

不安に思っている事を素直に言う事、意見がぶつかってもじっくり話し合う事。

と言われても、それをうまく切り出せるかどうか…。

週明け、仕事の日々が戻っても、新名は頭の片隅でずっと美奈子の事を思い悩んでいた。

マリッジブルーに対するブルーである。

これはこれで、ある意味別方向のマリッジブルーなのかもしれない…。

*

ようやく訪れた週末、その前日の金曜日、新名は休憩時間に緊張しながら美奈子にメールを打った。

『明日はいつも通りに来れる?』

結局、休憩時間中に返信はなく、仕事が終わってから飛び付くようにロッカーを開けて携帯電話をチェックすると。

『午前中に用事があるから、午後に直接アパートに行くね』

とあった。

少なくとも、会って話をする事が出来そうな事にホッと胸を撫で下ろした新名は、今度は話をする事にそのもの緊張して、ゆっくりと深呼吸する。

大丈夫、ダテに何年も付き合ってきた訳じゃない。

マリッジブルーの状態から抜け出せるよう、話し合って理解し、支えていける。

了解とメールを返した新名は、明日に向けて気合いを入れ直した。

*

土曜日、朝からそわそわと落ち着かない新名は、気分転換も兼ねてコンビニエンスストアに美奈子が最近好んで口にしているとメールで言っていたジュースを買いに行く事にした。

ジュースを手にし、他にも何か必要な物はないかと店内を見て回っていた新名の視界の端に、店の外の通りを歩く見覚えのある人影が映った。

顔を上げてよく見ると、暗い表情で道を急ぐ美奈子の姿が確認出来た。

慌てて追いかけようとしかけ、手に商品を持っている事に気付いて急いで一度売場に戻し、自動ドアが開くのをもどかしく感じながら外に出てみたが、既に近くには美奈子の姿はなかった。

小さく息を吐き、店内に戻った新名は先程持ち歩いていた『大地の恵み 初摘み苺味』を再び手に取ると、そのままレジに向かった。

あんなに暗い、どこか思い詰めたような表情で、一体どこへ行ったのだろうか…。

ひょっとしてと思いアパートに急いで帰ったが、美奈子は来ていなかった。

するとやはり、あんな表情のままでどこかへ行ったり、誰かに会ったりしに行ったという事になる。

新名はしばらく思い悩んだ末、携帯電話を手にすると美奈子にメールを打つ事にした。

『美奈子ちゃんの好きな初摘み苺ジュース買ったよ☆用事、何時頃に終わりそう?』

返信はなかった。

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