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幸せの後先


その日は結局映画のDVDを見て過ごし、夕方美奈子は翌日の日曜日に、急用が出来たからその支度もしなければならないと言って帰宅した。

いつもならば夕食を共に食べてから帰るし、婚約してからは美奈子の家人から泊まりも心良く許可してもらえていたため、最近の週末は昼も夜も一緒にいたのに…。

どこか、違和感のようなものを感じる。

いつも通りに自宅まで美奈子を送ってアパートに戻ってきた新名は、沸き上がりかけた不安を押さえ込み、一人で摂る夕食の準備のために冷蔵庫を開けた。

*

新名の仕事が遅くなる事がよくあるので平日はうまく時間が合わず、やり取りはメールだけの場合が多い。

週明け、仕事の合間にやり取りするメールは、いつもと特に変わりなかった。

その日の出来事や、最近気に入って飲むジュースの事など、文章を読む限りでは暗いイメージはない。

いつもと違うメールが来たのは金曜日の事であった。

『カレンが日本に来てるんだって!土、日、はカレンとミヨと三人で過ごしたいんだけどいいかな?』

日本にいる宇賀神ミヨとは時々会っているようだが、普段は海外に住んでいる花椿カレンとは滅多に会えない。

恐らくそう長く日本にいられないであろう事も考えると、まさか断ってくれとは言えないし、そんな事を言う心の狭い男でありたくはない。

『了解。楽しんでおいで♪』

メールにはそう書いたが、実際は…。

「よりによって、このタイミングに…」

この、どこか不安な気持ちのまま、もう一週間過ごさねばならない事を思い、新名は小さくため息をついた。

*

週末、久しぶりに一人で過ごす事になった新名は、散歩がてら書店に行く事にした。

毎月定期購読している雑誌が出た頃だし、何かいいブライダル誌があればチェックも出来る。

そう思いつつ出かけて行った書店で、新名は気になる単語を目にする事になった。

『マリッジブルー』

なんの気なしに手に取ったブライダル誌の中に、マリッジブルーについて簡単に触れられていたのである。

マリッジブルーとは、結婚が決まってから、本当にこの人と結婚して良いのかと悩む心理状態の事で、結婚準備中に陥りやすい。

そう書かれていた。

新名の脳裏に、先週の美奈子の様子が浮かび、鼓動が早くなる。

もしかしたら、そういう事なのだろうか…?

今日、カレンやミヨに会うと言っていたのも、相談するため…?

マリッジブルーは、パートナーの理解と支えが必要で、よく話し合う事も重要です。

また、周囲の友人や経験者に相談する事も解消に繋がります。

なるほど、相談は今まさにしに行っているだろうからいいとして、後は自分だ。

言ってくれればいつでも話し合いに応じるのに、まさか未だに頼りないと思われているのではないだろうか。

だからこそのマリッジブルーなのか…?

そんな不安までよぎる。

様々な考えで頭がいっぱいになった新名は、結局何も購入せずに帰宅する事となったのだった。


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