狂った歯車 | ナノ

▽ 歪む心


目を覚ましたアンタは着せられたバスローブを見て、オレに少しだけ微笑んだ。
それにうっかりドキドキさせられる。
バスルームに向かう姿を見送って、自分も服へ手をのばした。


「最悪…せっかくセットしてた頭もグチャグチャ」


すっかり寝てしまった髪を指でつまむ。
アンタが身支度してる隙に、忘れ物チェックして、チェックアウトを済ませる。


「あ…ニーナお金…」
「いいから行くよ」


アンタバカなの?
無理矢理連れ込まれてヤられてんのに、金払うって言い出す女がどこにいんだよ。
ホテルを出て、朝来た道を今度は手を引かずに戻る。
後ろを振り返ると無理をしたせいか、トボトボとつまずきそうになりながら、オレついて来てる。ふと気が付くと左の首をずっと押さえてて、隣に並んだとこでその手を引きはがした。アンタは困った表情をしてて、よくみるとファンデーションで隠せなかった鬱血痕がうっすら見えた。
隠そうとしてた事にイライラが募ってく。


「誰に見られるのがそんなにヤなの?」
「か、家族とか…友達とか…みられたら…」


家族?友達?嵐さんじゃなくて?
真っ赤になって、俯く姿に少し苦い笑みがこぼれる。


「ちょっと待ってて」
「ニーナ?」


俺は近くのコンビニに入り、化粧品コーナーをのぞく、あんたの肌色より少し濃いめのコンシーラーを選び、レジで会計を済ませた。アンタの手を引いて、近くの公園に入りベンチに座らせた。
外の包装を開け、クルリとリップの様にまわし首に塗り付ける。


「え?え?」
「ファンデ出して」


いわれるままに、華奢なかわいいコンパクトをオレに渡すと、受け取って指でなじませたコンシーラーに粉をあてていく。
クラスの騒がしい女子の話もたまには役に立つもんだ…。
少しわかるけど、赤みは消えたし。
コンパクトを返すと、アンタが小さなミラーでそこを確認する。


「薄くなった」
「コレあげるから」
「ありがとう」


フワリといつもみたいに笑ってくれて、ギュッと胸がつかまれたみたいになる。
思わずオレはキスしてて、ギシリと固まる体に、現実を突き付けられ悲しくなる。


「行こう」


手を出すとためらいがちに、そっと手を握られる。
あったかい温度が繋ぐ手から伝わってくる。
2人とも黙ったまま、手を繋ぎアンタを自宅まで送り届ける。


「じゃあ…」
「…うん、あの…」
「なに?」
「あの…ううん、何でもない…」


言葉を紡がなかったアンタが家の中に入ってく姿を見送って、1人帰り道を歩き出す
まだ残る繋いてた温かい感触に淋しさが募る。




どうしてアンタはあんな事されたのに、オレに優しく笑えるの?

どうしてアンタは、どんなに穢してもそんなに綺麗なままでいられるの?

どうしてオレは………。



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