▽ 絆 -kizuna- 04
バイクに乗りどこへ向かうでもなくただひたすら走ってた。
ふとバイクを止め、目の前に飛び込んできたのは不動産屋の文字。
衝動的にそこに入り、物件をみせてもらう。
目に留まった一つの家、めちゃくちゃボロボロで、まるで今の俺の心理状態と一緒…。
詳しく聞いたら、家賃もメチャクチャ安くて、ボロいから勝手に改造してもいいって。
もう即決して両親に話す。
帰ってこいっていわれても、これ以上もう関わる事なんか出来ない。
ましてやコウに合わせる顔すらない。
無理矢理書類にサインを貰い、引っ越す手続きをした。
いつでも入居可能で、鍵もらって来てみたらマジでボロボロ…。
West Beachよりひどい…。
これが俺の新しい家。
「ホントひでーや!コウがみたらありえねぇ、とかいい…そう…」
ふと口をついて出た人物に、二度と許されるはずなんかないのに。
激しい後悔が押し上げてきて、涙が溢れてくる大切な二人を傷つけた。
すっかり日も落ちてしまって、部屋に入り真っ暗な何もない部屋で、ダランと天井を見上げる。
いつもならきっと、美奈子が作った飯食って、風呂入って、一つの部屋でみんなでまったり過ごして、俺とコウが悪態つきあうのを美奈子が笑ってみてて…その姿をみたコウは、とても愛しそうに見つめてた。
それがすごく羨ましくて、成り代わりたいと思ってた。無邪気に接する美奈子に、好きだと伝える勇気もなくて、気持ちはずっと未消化のまま、ダメだと知りながら少しでもコウの気分を味わいたくて、必要以上に接してた。
コウに愛されて、どんどん綺麗になってく美奈子に、想いばかりが募っていった。
出来る事なら『美奈子を俺のモノにしたい』ずっとそう思ってた。
コウはそんな俺の気持ちに気付いてたんだ。
『俺の女に手を出すな』とわざと美奈子を抱いたんだ。
それは理不尽な怒りにかわり、美奈子は何も悪くなかったのに、乱暴して、こじつけて言葉で罵って、あんな顔をさせるつもりなんかなかったのに…。
ずっと言えなかった気持ちを一番最悪な形でぶつけてしまった。
今思い出すのは、三人で遊んだ楽しかった事ばかりで、もう二度と帰れない日にまた涙がこぼれる。
「明日二人がいない時間に荷物取りに行かなきゃ」
空っぽの部屋で眠れずにずっと天井をみてた。
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