絆 | ナノ


▽  -kizuna- 02


二人が出てったの見計らって、バイトも休んで今まで寝てた。
何度も頭の中で昨日の彼女の甘い声が繰り返され、どんなに振り払おうとしても、耳にこびりついて離れない。




ギイッ


潮風で錆びたアルミの扉が開き、オレの思考を遮った。


「あれ?ルカ帰ってたの?」

「早かったね?」


大学から帰ってきた美奈子がヒョッコリ顔を出した。
ヤバい…今はあんまり普通でいられる自信がない。


「うん、今日は午後1つしか講義なかったから」


カウンターの椅子に座る俺の横にちょこんと座り、小首を傾げながら覗きこんできた。
やめろよ…惑わさないでくれ…。


「なに?」


スッと細い手がのびてきて、オレの眉間を押し、俺はビックリして過剰に身をそらしてしまう。
美奈子をみると心配そうな顔でコッチをみてた。


「しかめっ面…何かあったの?」


何か…何かなんていえないだろ…。お前昨日の夜コウと何してた…?
もうそんな関係になってる事すら知らなかった。


「…お腹減った…」


オレは思わず口にしてしまいそうな言葉をギリギリで置き換え、それを聞いた美奈子は思いっきり笑いだした。


「ふふっ!ルカ子供みたい!!ホットケーキ作ってあげるから機嫌直して?」


少し短めのスカートをひらりとひるがえして、キッチンへ向かい、冷蔵庫から卵とミルクを取り出し、手際よく準備する。
その姿をみていると、少し心が落ち着いてくる。

それも一瞬だったけど。


「コウのも一緒に作っとこうかな」


今まで見たことないような、とても愛しそうな顔でコウの名前を口にされると、胸がざわついてくる。

何?昨日ヤッた事でも思いだした訳?


「どうせ今日も遅いだろ?」


あからさまにガッカリした顔をされ、心に影が落ちる。
別にそこまでガッカリ顔しなくてもいいだろ?


「そうだよね…」


ツキン…、ツキン…と小さな抜けない棘が胸に刺さる。


美奈子は気を取り直して、俺の為だけにホットケーキを焼き始めた。


「ちゃんと分厚くしてよ」

「任せて!」


柔らかく笑ったその笑顔に翻弄される。
お前が何かしてくれるだけで嬉しいんだ。

このまま時が止まってしまえばいいのにと…。俺だけの為に何かしてくれる時間が永遠に続けばいいのに。


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