▽ 絆 -kizuna- 11
バイトを終えると先輩は外で待っててくれてわたしを見つけると手を振ってくれた。
「お待たせしました」
「なんか、急がせたみたいだね」
「え?え?」
「はねてる」
わたしの頭の上に玉緒先輩の手が伸びて、はねてた髪に触れようとした瞬間、体が意図せず硬直した。
「美奈子さん?大丈夫?」
「...あ、すみません!」
慌てて髪の毛を整えて笑顔を取り繕う。
不思議そうな顔をした玉緒先輩が心配して家まで送ってくれる事になった。
ちらりと見上げると優しく微笑んでくれる。さっきの態度には触れないでくれてホッとした。
やっぱり男の人はまだ怖い。
「僕に話って何かな?」
「えっと...その、周防先輩の事なんですけど」
「周防?」
足を止め怪訝そうな表情を浮かべわたしを見下ろす。
「周防先輩って、つ、つつつき合ってる人とかいるんですか!?」
意を決して一気に吐き出すと玉緒先輩は真剣な表情でわたしを見つめた。
「どうしてそんな事聞くんだい?周防の事...気になってるの...?」
トーンダウンした玉緒先輩の声が低くて、こんな探りを入れるようなことをして怒らせたのか後ずさる。
「いえ、その莉子ちゃ...、あっ!あのっそうじゃなくて...やっぱりそのっ、いいです!すみません!」
「莉子ちゃん...て、大石さん?彼女が周防を?」
すっかりバレてしまって心で莉子ちゃんに謝りながら観念して頷いた。
さっきまでの空気が一変して玉緒先輩が笑い出した。
「なんだ...そっか...ははっ、あーなるほど」
「あのっ!言わないでくださいね?」
「もちろん。むしろ僕でよければ協力するけど」
「ほ、本当ですか!?」
思ってもみないほどの強力な助っ人の登場に思わず万歳したくなる。
これで核心を聞ける。やったよ!莉子ちゃん!
「まぁ、そんな大した事は出来ないかもしれないけどね」
「質問があるんですけど...」
「ん?何?」
「し、失礼かなと思うんですけど、周防先輩ってその...他の先輩が言ってた話って本当...です、か?」
キョトンとした顔した後玉緒先輩は吹き出した。
「女性関係の事?ないない。僕が知ってる限りアイツ、皆が思ってるより凄く真面目だと僕は思うよ。周りが言うからそれに合わせてるって感じかな。じゃなきゃ美奈子さんの大切な友達なのに協力するなんて言わないよ」
「よ、良かった〜。ありがとうございます」
ようやく莉子ちゃんにいい報告が出来るって思ってホッと胸をなで下ろす。
「美奈子さんが周防を気になってるのかと思ったよ」
「わたしですか!?」
「うん。美奈子さん彼氏がいると思ってたからちょっと不思議で」
「......彼氏、居ないです」
「だって...美奈子さん」
玉緒先輩が言わんとする事が分かってわたしは言葉を遮ってしまった。
高校時代を知っているって事はわたしがコウを好きだったって事がバレてる可能性が高い。
周りから言わせれば気持ちが全く隠せてなかったらしいし...。
必死で笑顔を作って話題をすり替えて感情を切り替える。
「玉緒先輩、買い出しお世話になります」
「うん。大石さんと周防上手くいくといいね。そういえばさ...」
察してくれたのか玉緒先輩は違う話題を振ってくれた。それなのに付き合っていた頃のコウとの想い出がフラッシュバックして、心を埋め尽くそうとする。かき消すように必死にはしゃいでた。
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