▽ 絆 -kizuna- 10
お手洗いから戻ると席順が微妙に変わっていて、座れる場所をキョロキョロ見回し探す。
莉子ちゃんは周防さんの隣を確保出来てた。
小さくガッツポーズを送ると、軽いウインクを返してくれた。
「美奈子さん。こっちこっち」
玉緒先輩が手招きする隣にちょこんと座る。
「こういう集まりは苦手?」
「あの…っ、あの…」
見透かされてしまったのかとしどろもどろになってしまう。
「そんな事無いです」って慌てて言うと、「僕は苦手だったよ」って言った後に、内緒のシーってポーズをされ、気持ちが緩み思わず本音を口にした。
「嘘つきました…本当は苦手…です」
「やっぱり」
「こういう所に来るのも初めてなんです…」
「そうか。ここはいい人達ばっかりだから大丈夫だよ。僕もすぐ馴染めたし」
優しく微笑まれてつられて微笑む。
サークルの人たちが話かけてくると、それに冗談で返したりしてる。
玉緒先輩の優しさは高校の時から全く変わってなかった。
穏やかで、気配りができて、頼りがいがあって…。
みんなが慕うのもわかるな。
玉緒先輩に話しかけてきた人たちの輪の中に入れてもらってしばらくおしゃべりを楽しむ。その話の中にウエアの話が出てきて玉緒先輩がわたしを見た。
「そうだ美奈子さん」
「はい?」
「ウエアとか、もちろんもってないよね?」
「え?はい。もってないです…どうしよう」
そういうの全く考えてなかった。
見学させてもらった時、先輩達は可愛いウエア着ていた。
莉子ちゃんもテニスしていたから持ってそうだし、持っていてもかわいいウエア買いそう。
せっかくだからわたしも欲しいけど、今月まだバイト代入ってない…。
「よければ姉が使ってないのがあるんだけど要る?買うまでの繋ぎにでも使ってもらってもいいし」
「え!?お姉さんもう使われないんですか?」
「ああ、お古じゃないよ。つきあいでテニスしようと思ったみたいだけど、結局タンスの肥やしにしちゃってね。僕がサークルに入ってるって言ったら、誰かもらってくれる人にあげてくれって言われてたんだ」
「助かりますけど本当にいいんですか?」
「もちろん。それがね、邪魔だからって勝手に僕のタンスに入れてあったんだ。僕も助かるし、ウエアを着た美奈子さんを見たいし」
「ふぇ?」
「ははっ、……冗談だよ」
「もう!びっくりしたじゃないですか!」
「ごめんごめん!あははっ、その顔!」
クスクス笑う先輩にからかわれたんだってわかってほっぺたをふくらませる。
わたしの中の先輩は凄く真面目でそんな事言うタイプじゃなかった。
話す時は背筋がピンって伸びる感じだった。今は凄く話しやすい。
ウエアも助かるし。
「なにかお礼をさせてください」
「いいよ。押し付けたみたいで悪いけど、本当に貰ってくれた方が助かるし」
「けど、安いものでもないし…気が…引けるんですけど…」
申し訳なくって見上げると、うーん、と考え出した先輩がひらめいたようにわたしを見た。
「今度の日曜日空いてる?」
「日曜日ですか?え…っと…」
スケジュール帳を取り出し、バイトの日を確認する。
予定のない空欄に声を上げる。
「えーと…、空いてます!」
「よかった。お笑いライブ見に行かない?」
「お笑い?」
「そう。ダメかな?お笑いきらい?」
「きらいではないです」
「一人でよく行くんだけど、誰かとみてライブの話をするのもいいかなって思ってね。美奈子さんなら気心知れてるし、きっと君も気に入ると思うんだ」
「ふふっ。わかりました。じゃあ日曜日に駅前でいいですか?」
「ああ、もちろん。楽しみだな」
「わたしもです」
約束をしたあと視線を感じて、莉子ちゃんをみると目配せされた。
隣をキープしたままだったから『上手くいってるね』の意味を込めて目配せを返してみた。
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