▽ 絆 -kizuna- ※07
「ああ〜、それ売れちゃったよ」
「……は?」
そうそう売れるハズがないとたかをくくってたEP盤が売れていた。見つけた時何としてでも手に入れときゃよかったと後悔しても遅い。
目的の品を手に入れそこなって店を出た。
このままなんもしねぇで帰んのも口惜しい。せめてコーヒーでも飲んで帰るかとポケットに手を突っ込んで、少し先の横断歩道までダラダラ歩きだす。
それにしても今日売れたとかありえねぇ。しかもほんの少し前ってなんだよ。
いっそ買っていった奴に『お願い』でもして譲ってもらうか?
急に記憶の中の美奈子が『それはお願いじゃないでしょ!』と頬っぺたを膨らませる。そういやルカと一緒によく怒られたな。
ついこないだの事なのに何年も経っているように感じるのは美奈子もルカも側にいないからなのか…。
はぁ…と大きなため息をつき、頭を上げると自然に足が止まった。
ついでに思考も。
目の前には信号待ちする未だに好きな女と親しげに横に並ぶ男。
やっぱり今日は厄日だ。
マジでとことんついてねぇもんだ。
朝はスプレー切れでイマイチ髪型がキマらなかった。
信号に全部引っ掛かった。
駐車場が空いてなくて目的地まで結構歩く羽目になった。
とどめに今日1番最悪な光景をみてる。
夢なら今すぐ覚めてくれ。
我に返り格好悪ぃと思いながらも慌てて路地に隠れた。眉間に深いシワを寄せてその光景から顔をそらす。
繰り広げられる楽しげな会話が、行き交う車の音でたまに掻き消されながらも耳に入る。
聞きてぇと聞きたくねぇが複雑に入り混じる。
そうこうしている内に聞き捨てならねぇやり取りが耳に飛び込んできた。
「夕飯は何にする予定?」
「うーん…わたし料理あんまり得意な方じゃないので、やっぱりカレーが1番無難なのかなって」
イラついてたくせに美奈子の声に胸の奥がトクンと跳ねた。
あくまでも一瞬だけ。
「料理得意そうに見えるけどな」
「ちょっと前に始めたばっかりで、まだまだレパートリー少ないんです」
「少なくても作れるんだから凄いよ。僕は作れないし。そうだ!朝は和食をリクエストしてもいいかな?」
「いいですね!お味噌汁!」
「楽しみだな。お、信号変わるね。行こうか」
「はい」
な…んだそりゃ?
そいつの家に飯作りに通ってんのか?
しかも朝飯って泊まりか?
どうゆうこった?
男の顔を拝もうとしてもこちらからじゃよく顔が見えない。
盗み見ても気づかれそうで視線をすぐに外し踵で地面を蹴る。
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