▽ 絆 -kizuna- 09
ネットで見つけた最近出来たっていうカフェに向かう。歩きながら3人で談笑してるとカレンがふと足を止めた。
「どうしたの?カレン」
遠くを見ていたカレンは眉間にシワをよせ表情が険しくなってきて怒りに変わってく。
カレンが見つめる先を見てミヨの表情も曇り、わたしは息が止まりそうになった。
反対側の歩道に大好きだった人がいた。
――――――コウだ…。
背の高いモデルみたいな綺麗な女の人と一緒で、すごく釣り合いがとれてて絵になる2人だった。
コウとの身長差が30p以上あったわたしとじゃ凸凹でちっとも様にならなかった事を思い出して悲しくなった。
たくさんの荷物は全部コウが持ってあげてた。
わたしが知る中でそんな風に親しくする女の人は思い浮かばない…。あのコウが腕に手をかけられて引っ張られても大人しくしてる…。
それは親しい間柄って事だよね…?
胸がえぐられそう…。
「何なの!?アレ!ぶん殴って来なきゃ気が済まない!」
拳を握り殴りに行くと息巻くカレンをミヨと一緒に静止する。
「……バンビ!」
ミヨが目で訴えてる。
本当の事言わなきゃこのままだと本気でカレンがコウの所に突っ込んで行っちゃう。
「ま、待って…!カレン…!」
「カレン、落ち着いて!」
「待ってじゃないでしょ!?だから聞いてもはぐらかしてたのね!ミヨまで何で止めるの!?浮気の現場見て黙ってるなんて無理よ!許せない!あのバカヤンキー!一発殴らないと気が済まない!」
「……違うの…!別れたの…!」
泣きそうになりながら最悪のタイミングでカレンに告白する事になってしまった。
こんな事ならもっと早く言っとけば良かった。
2人がかりで押さえてたカレンの体がピタッと止まって、力が抜けゆっくり振り返る。
「………嘘」
「…ホントだよ。黙っててごめん…なさい」
「どうして!?今のあの女のせいなの!?」
コウ達の方を指差し、声を荒げるカレンを引っ張って、コウに見つからないように路地裏に隠れた。
「違うの…。色々あって、わたしが…バカな事しちゃって、結果的にものすごく彼を傷つけたの」
自分の口からコウって名前が言えなかった。
もう呼べないってわかってるし、名前を口にしたら泣いちゃいそうで彼としかコウを表現出来なかった。
「色々ってなに!?コーイチくん、女のワガママも許せない器のちっちゃい男なの!?」
フルフル左右に頭を振る。
「ううん…。凄く優しかったよ。幸せだった。だけどわたしが何もかも壊しちゃったの。あんな苦しそうな顔、もうみれなかったの…。」
「嘘、でしょ…?あんなにコーイチくんの事好きだったのに別れるって何があったの!?」
何があった…。思い出して体が震えそうになる。
本当の事なんか絶対に言えない。
咄嗟に出たのは嘘。
嘘とも少し…違うのかな。
「わたしが…う、浮気したの…!淋しかったから…。ずっと応援してくれてたのに本当にごめんなさい…」
見上げてカレンの表情をうかがうと怒りから心配そうな顔に変わる。
あんな…形でも…コウを裏切ってしまった事には変わりない。淋しかったのも本当。
もっと…昔みたいにデートしたり、色んな事話したりしたかった。
けど、コウをみると一瞬で淋しさも飛んじゃって、くっついていられるだけで浮かれちゃって幸せだった。
わたしの独りよがりで2人を傷つけて成り立つ幸せだったのに。
黙り込んでしまったわたしをカレンが覗き込んだ。
「……バンビ」
何かを言いかけてカレンは口を噤む。
わたしは『バカな事しちゃった』って精一杯な笑顔で言った。
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