▽ 絆 -kizuna- 09
忙しくしていると余計な事を考えなくて済むから、スケジュールの空いている日は全てバイトを詰め込んでいた。
とことん入る事でしか気を紛らわす方法が思いつかなかった。
そんな忙しい日々を1日、また1日と淡々と流れ作業の様に過ごしてる内にあっという間に大学も夏休みに入った。
アナスタシアのバイトはベテランのバイトの子達と同じ位こなせる程慣れてしまい、染みついた業務は要らない心の余裕を産んで、隙間に入り込む感情がわたしの心を曇らせた。
ああ、もう…考えたくないのに…・
がっくりうなだれてたある日、そんな暗い気持ちを吹き飛ばす程嬉しい知らせがわたしとミヨとのメールに同時に届いた。
『来週帰ってきまーす。ファッションチェックするよ チャオ』
バイト上がりに更衣室で着替えてたわたしたちは、一緒に驚喜な声をあげて顔を見合わせる。
「メールみた!?」
「うん」
「カレン帰ってくるんだ!」
「来週」
自分でブランドを立ち上げるのがカレンの昔からの夢。
卒業してからすぐ夢を叶える為パリに勉強に行ってしまったカレンと会うのはそれ以来。
元気なカレンらしい文面に順調なんだろうなと嬉しくなり、久しぶりに会える事にも心がウキウキしてきた。
「お泊り会したいなぁ」
「…また色々着せられる」
ミヨが眉間にシワを寄せため息混じりにそうこぼす。
「…そうかも」
高校のお泊り会のカレンを思い出して、プッ、と二人で吹き出す。
高校の頃は本当に楽しかった。
だけどそれを今思い出せば辛い想い出に繋がるから、あんまり考えないようにして、ギュッと目をつぶる。
「バンビ、カレンに言った?桜井兄の事」
ミヨの言葉に結局思い出させられて、フルフルと頭を横に振った。
カレンにはまだ言えてない。
どう伝えていいのかわからない。
きっと理由を聞かれちゃう。色々聞かれても何も答えられない。
あんなに協力してくれたのに…。
呆れられちゃうかもしれない。
所詮その程度の気持ちだったのかとか思われちゃうかな…。
表情を曇らせたまま黙っているとミヨが口を開いた。
「わたしはバンビが話してくれて嬉しかった。カレンもきっとそうだと思う。話してくれない方が悲しい」
「…うん、カレンにもちゃんと直接話すね」
心配そうなミヨに笑いかけると、ミヨは「星の導きを信じて」ってまっすぐわたしを見つめて言ってくれた。
それってカレンはわたしに呆れちゃったりしないって都合よく受け取ってもいいのかな…?
その真意を聞けずに2人でバイト先を後にした。
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