絆 | ナノ


▽  -kizuna- 06


レコード店に入り店内を見渡し、気を取り直して目当てのEP盤を探す。


「こんな古い物何がいいわけ?」

「…うるせぇな」


わかんねぇ奴は黙ってろ。
説明したって良さなんかわかりゃしねぇんだ。

大した期待もせず一枚づつ見ていき、最後に引っ張り出したEP盤で手を止めた。


「うぉ!すげぇ!」


興味ない空気をプンプン匂わせていたイトコが、俺が思わず上げてしまった声に振り返り、近づいて来る。


「なーに?うわっ!高いっ!」

「うるせぇな、黙ってろよ」

「アンタ本当に可愛くないわね。琉夏くらい愛想振り撒きなさいよ」

「可愛いとか思われたくねぇよ。気持ち悪りぃ」


琉夏はそんな所がすげぇんだ。
俺に無いもの、出来ねぇ事ばかりできんだ。
ズン、と重たくなる心に頭をふる。

手にとったレコードはずっと探してて、中々お目にかかれないレア盤。
かなり値は張ってっけど、欲しいには変わりねぇ。
…けど手持ちの金がなくて渋々棚に戻した。


「アレ?買わないの?」

「今日はいんだよ」

「いい物ってすぐ売れちゃうよ〜?いいの〜?お金貸したげよっか?利子取るけど」

「いーってんだろ!」


早々売れる事なんかねーだろうし、後ろ髪引かれる思いで店を出て、いい加減この拘束状態から抜け出したくて、近くに車を停めたパーキングまで早足で歩いた。

乱暴に後部座席に放り込んだ荷物を『丁寧に扱え』とか文句を言われ、大きなため息が出る。
散々つき合ってやったのに、そのムカつく言い草に、イライラしながら車を走らせる。


「そういえばさ、おばさん言ってたんだけど…」


返事も、あいづちも面倒で何も答えないでいると、勝手に喋り出したいとこが衝撃的な事を口にした。


「ダイナーって取り壊されるんだってね」


そんなの知らねぇぞ。
お袋どころか、親父にもきいてねぇ。


「ずっとあったものが無くなると寂しいよね」

「…まぁな」


あそこも無くなっちまうのか。
本当に失う時は何もかもがあっという間だ。

いとこを送り届けた後、実家で親父にちゃんと確かめたくて、取り壊しの日にちを聞いた。
今日、明日って訳じゃなくて、ちょっとだけ先だった事に少しだけホッとした。


それでもいつかは壊される。
永久不変なものなんてねぇんだ。


美奈子と別れ、琉夏とも話せないまま時間だけが流れていく。
俺はいつまでこの気持ちを引きずるんだ?



だから休みなんかいらねぇんだ。
余計な事ばっかり考えちまう。
どうにもならない事ばっかりな。


To be continued…


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