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▽ 紺野


来年が受験の美奈子さんと一緒に、初詣に向かう最中黒塗りの車が目の前に止まり、車のウインドウが開いた

設楽か…
なんで日本にいるんだ?


「あ、聖司先輩!おめでとうございます!海外に行ってたんじゃ…?」

「忙しい間を縫って来てやったんだ」

「どうせまた、我が儘を言ったんだろう?」


ただ美奈子さんに会いたいってだけで、海外から海越えて来るって、設楽も本気だな
僕も渡すつもりはないけれど


「会えて嬉しいです」


ニッコリ笑う姿に、少し焦ってしまう
君は設楽の事が好きなのか?


「ま、ま、まぁ、お前の為なら…来てやっても…いい…」


何だ?設楽、随分と前と態度が違うじゃないか
耳まで真っ赤になってる


「はい?何ですか?」

「何でもない」

「僕達今から、初詣に行くんだけど、設楽は忙しいよね?」

「いや、俺も行く」


来なくていいのに
車から降りて美奈子さんをみて、愛しそうに君を見た
僕と同じ目で君を見てるんだよな


「行こうか」

「はい!」

「帰っていいぞ」

「僕も必死だからね」

「何がですか?」


小首を傾げて交互に僕達を見て、間に挟んで神社までの道を歩く


「受験の合格祈願しなきゃね、美奈子さんなら安心だけど」

「玉緒先輩が勉強見てくれるからですよ」


ふんわり笑ってくれて少し赤くなる
ダメだ…この笑った顔が、僕を壊してしまいそうになるんだ


「…勉強見てもらってるのか?」

「玉緒先輩の教え方がすごくわかりやすいんです」

「俺とフランスにくればいいだろ、受験受けなくてもいい」

「旅行か〜行きたいですね」

「ちがっ…!」


ストレートに誘われてるのにその答えにホッとした
いつもは困るけど、君が鈍感で良かったってね
ゴニョゴニョ、と言葉を無くしてハァ、とため息ついた設楽をみて、申し訳ないけどいつも会いたい時に会える僕は少し得かもしれないな
メールだって、いつもしてるし


「あ、神社見えて来ましたね!」


君が少し早足になって、よりにもよって設楽と並ぶハメになる


「俺は欲しいモノは手に入れるんだ」

「それは美奈子さんが決める事だよ」


目も合わさずに、速度を上げても同じ事を考えてるのか、全く一緒の速度で並んでる
不意に君が振り返って声をかけた


「聖司先輩、ピアノたまには聴きたいです」


それだけは勝てる訳ないし、どんなに努力したって無理だ


「今日は時間があるから、うちに来い、好きなだけ聴かせてやる」

「じゃあ、僕もお邪魔しようかな」


二人きりになんてさせないよ


「呼んでない」

「美奈子さん、僕も設楽のピアノを聴きたいんだけど、招待してくれないんだ」

「え?何でですか?」


悪いね設楽
そうはさせない


「ほぅ?珍しいな、お前がピアノに興味あるなんて知らなかった」

「やっぱり仲良しなんですね!」

「ええっ?」
「どこがだ!」

「だって、二人とも久しぶりに会えたから、お話も弾んでますし、仲良しさんです」


仲良しさんて…
牽制さえすれど、どこも弾んじゃいないと思うけど


「こうやって3人で会えるの久しぶりだし、凄く嬉しいです」

「そうかな?」

「俺は、二人がいい」

「わたし…、邪魔ですか?」


シュンとして、俯いた君の勘違いに笑いが込み上げてくる


「違う!俺は…お前と…!ああっ、もう何なんだお前は!」

「あはは!すごいな君は」

「え?え?何ですか!?」

「笑うな!」

「だって!あははっ!」


大笑いする僕と、キョトンとした鈍感な君
空回りしちゃった設楽
残念だけど、まだ同じラインみたいだな


だけど今年こそはそんな君を振り向かせてみたい


end


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