▽ 嵐
卒業してから初めての初詣
美奈子を誘って神社に来た
新名が来そうな予感がして、いつもより早めに家から連れ出した
晴れ着姿のお前はいつもと違っていいな
寒そうにブルッと身を震わせた肩に手をかけようとした時、回避したはずの新名が大声を出して、走ってこっちに来た
「あーっ!見つけたー!」
全力で走って来た新名に、帰れって目線を送ると、キッと俺を睨んだ
「ちっ、来やがった」
「来やがったってあんまりでしょ!」
「あっ!ニーナ!来れないんじゃなかったの?」
「来ないわけないじゃん!俺、受験だしー!ここぞとばかりに神様に、学業成就お願いしなきゃダメっしょ!」
「そうだね!来年3人で大学通いたいよね!」
「でっしょー!美奈子ちゃんがそう言うなら俺、超頑張るし!」
美奈子とひとしきり話した新名がこっちに視線を向けて、コソッと小声で話し始めた
「…嵐さん、中々こズルくなりましたね、しかもさりげに肩に手を回そうとしませんでした?」
「悪いのかよ」
「散々気づかなかったクセに、何スか今頃ー!アレはズルいっしょ!」
「好きなんだからいいだろ」
俺はもっと美奈子に触りたい
何が悪いんだ
「どーせ、好きだから触るの何が悪いんだって思ってんでしょ?」
「…凄いな新名、人の心読めんのか?」
「行動に現れてんじゃないっスか!ダメだし!」
美奈子の気持ちがわからない以上無理な事も出来ねぇし、新名のいう事もわかるんだけど、何だろうな?
勝手に体動くんだよな
二人で美奈子を挟んで、カラン、カランと鈴を鳴らして、柏手で願い事を心で唱える
『試合に勝てます様にと、美奈子が俺のモンになります様に』あと『新名が受験合格しますように』もついでに…
「二人は何をお願いしたの?」
「俺は次の試合の事」
後は内緒だ
「俺はもちろん受験合格!」
「あ、わたしもその2つお願いしといたよ!」
「…他は?」
「そんだけ?」
俺との事はなんも考えたりしねーのかな
「うん、あ、手が冷たい〜」
「貸せ」
美奈子の小さな手を取って、キュ、と握ると冷えてて凄く冷たくなってた
「嵐くんの手、凄くあったかいね〜」
ニッコリ笑って、少し寒さで赤くなった鼻と、頬っぺたに手を伸ばそうとした時、暖かそうなマフラーが美奈子に巻き付いた
「これ貸したげる」
「ニーナの匂いがするー、あったかーい」
マフラー越しに新名の手が美奈子の頬を包んだ
あ、腹立つ
俺は触ってもいいけど、新名が触るとムカつく
しかもなんだよ匂いって
どうでもいいだろ匂いなんて
こんな事なら、マフラーも手袋もしてくりゃ良かった
俺には必要ねーんだけど
「あー、もうすっげ寒そう!大丈夫?」
「うん、晴れ着にマフラーって変な感じだね」
「お前は何しててもかわいいけどな」
「うん、かわいいよ」
「え?う、あ、あ、あ、ありがとう…」
真っ赤になって新名のマフラーに、顔を埋めた姿はかわいいけど、その持ち主が新名ってのがなぁ
「行くぞ」
美奈子の手を引いて、おみくじんトコに連れて行こうとしたら、新名が反対の手を握った
「…俺はこっち」
「なんで」
「いいっしょ、別に」
「仲良し3人組だね〜」
仲良し2人組+1でいいんじゃねぇ?
「うーん」
「えー?」
「来年はニーナも同じ大学だし、また3人で遊ぶ事多くなるね〜、嵐くんとはよく学校帰りドコか寄ったりするもんね」
「な、何それ初耳なんですけど!?」
「そうだっけ?」
そうか…そうなるのか
嫌だな
「新名、落ちろ」
「絶対受かります、その日何が起ころうとも、俺は受かりますからね、本気出しますよ」
「先輩の言う事は聞け」
「コレに限っては、先輩関係ないッス」
「どうしたの?」
「なんでもねーよ」
「今のところは内緒」
「ふーん」
神様、さっきの願い訂正
新名が合格する前に、美奈子が俺のモンになります様に
end
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