series | ナノ

▽ 甘える女


俺の女が風邪引いた。
いつも腹出してグーグー寝てるからだろうけどな。


「コウちゃん、りんご食べたい」

「チッ、仕方ねぇな…」


家事をしていた手を止めて、冷蔵庫からりんごと、シンクにあった果物ナイフをベッドルームに運ぶ。

熱で潤んだ目ぇして頼まれると断れねぇ。
風邪引いてから美奈子は甘えてワガママ三昧。
それが別に嫌じゃねぇってのがどうなんだ?
しかも少し頼られて嬉しいような気さえする。
俺の手元を覗き込んで、むいてたりんごを見つめる。


「ねぇねぇ、うさぎさんにして?」

「バカだろオマエ。食えりゃいーんだよ。こんなもんばっか食ってねぇで、肉食えよ、肉!」

「そんな食欲ないよ」


ベーッと舌を小さく出して見上げられた。
元々潤みがちな瞳が熱のせいなのか余計潤んで見える。
無邪気に待つ姿に渋々りんごの皮を耳にして、りんごにプスリとフォークをブッさした。


「あ、痛い」

「どこがいてぇんだ?大丈夫か?」

「うさぎさんのお尻が」

「はぁ!?」


発言に呆れて、りんごうさぎのケツに刺さったフォークを、美奈子に渡そうとしても受け取らず、それをジッと眺めていた。


「食わねぇのか?」

「…食べるのかわいそうになってきちゃった…」

「オマエがうさぎにしろって言ったんだろうが!」

「普通のりんごなら食べる」

「…っマエなぁ」


はぁっ、と深いため息を吐き、りんごうさぎから、ただのむきりんごにして、美奈子の口にそのまま捩込んだ。

しゃく、とかじられたりんごで、少し濡れた唇に少しだけ動かされる理性を引き止めた。
病人相手になんも出来ねぇし、もう1週間はヤってねぇ。そろそろ自分で処理でもしねぇと大変な事になりそうだ。


「おいしい」

「オラ、自分で食えって。洗濯してくっから」

「うん。コウちゃんありがとう」


フワッと微笑まれドキッとして、よこしまな心を散らす為に美奈子の頭をワシワシ撫でる。

くしゃくしゃにされた髪を両手で整えて、ブーブー文句たれる美奈子を後に、洗濯なんて所帯臭いモンに逃げるってどうなんだ。
汚れ物を洗濯機に放り込み洗剤を出して、禁欲中の心と体を落ち着かせる。


「ねぇ、コウちゃん」

「あ?」


振り返るとベッドから抜け出してきた美奈子が後ろに立ってた。
上半身しか着てないパジャマから、スラリとのびた程よく肉のついた柔らかそうな白い生足。
一瞬にして高揚しそうになるのを強固な理性で押し付けた。


「まだ熱あんだから寝てろよ。治んねぇぞ」

「これも汗かいたから洗って」


着ていたシャツ風のパジャマを引っ張って見せて小首を傾げる。
ああ、そりゃ反則だろ…。
マジで理性がぶっ飛びそうだ。
何考えてやがんだよ。


「向こうで着替えてろ。これ入れたら取りにくっからよ」

「もうっ!コウちゃんのバカ!」

「あぁ!?バカはオマエだろ!さっさとベッド戻れよ!」

「鈍感!バカ!」

「へぇへぇ、言ってろ…。ったくよ」


不満そうに口を尖らした美奈子が、俺に近づいて手を取って、胸元のボタンに手をかけさせる。
な!?


「…脱がせて」

「は、はぁ!?」

「ここで脱ぐの!洗濯機そこなんだもん!」


頬っぺたをぷく、っと膨らませ、早くといわんばかりに、腰に手が巻き付いて抱き着かれた。
マジかよ!?
何考えてんだよ!?


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