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▽ いつか、君と


美奈子さんが寝付いて洗い物済ませ、額を触ると少し熱が上がっているようだった。タオルで拭ってあげると『う…ん』と眉をひそませる。額に冷却シートを貼ると、美奈子さんはまた規則正しい寝息を立て始めた。

ずいぶんアルコールに弱いんだな。
思い出して普段見れない様子を見れた事が少し嬉しくもあった。
たまご酒をすすめた時、一瞬躊躇したのはアルコールに弱い事を自覚していたからか。
優しい美奈子さんだから断れなかったんだろう。悪い事をしてしまった。

しかし、美奈子さんはアルコールに弱いっていつ自覚したんだろうか?
ああ、そっか。大学のサークルコンパとかあるから…。
いや、待てよ。
飲む席であの状態になるのは非常にまずいんじゃないだろうか。僕以外の男の前であんな姿を見せて迫ったりとかしてないだろうか。

自問自答を繰り返した末、不安で胸が一杯になってきた。美奈子さんに限ってそんな事はないと思っていても、さっきの変貌を見てしまったら、他の男に抱きついたりしているんじゃないかと疑ってしまう。
抱きつく位ならまだいいけど、他の男にキスをせがんだりしていたら…。

眠る美奈子さんを覗き込んで前髪をそっとかきあげてみる。うっすらと瞼が持ち上がり、もう一度美奈子さんが目を閉じるのを確認してからモヤモヤした気持ちを吐き出した。

「……僕以外の男にさっきみたいな事してないよね?」
「………………して、たら?」

独り言のつもりで吐いた不安を起きていた美奈子さんに聞かれ思わずビクッとなる。
真っ直ぐ僕を見つめる奥に吸い込まれそうになった。
大きく1つだけ息を吐き本音が口から漏れ出す。

「許せないな」

美奈子さんと『何か』をする男を想像するだけで僕の心は黒く淀んでしまう。それ程までに僕は美奈子さんを好きじゃ足りない程愛している。

「ふふ、冗談です」
「笑えない冗談だよ。そんな事言われたら僕は…、今すぐにでも君の全てを奪いたくなるよ」
「…………奪って欲しいって、……言ったら?」

熱で潤んだ瞳が期待に満ちた目で僕を見つめる。
美奈子さんの頬を優しく撫でてゆっくりと唇を重ねた。
このまま美奈子さんを抱いてしまいたい衝動にかられたけれど、重ねた唇がとても熱くて辛うじて理性のブレーキがかかる。やっぱり病気の美奈子さんに無理はさせたくない。

「本当は…このままその…、君を抱きたいけど…、君が大事だから今日はキスだけで我慢するよ」
「………玉緒さん…」

君は照れたようなホッとした様な顔をして優しく微笑んだ。

「早く風邪を治して2人でどこかに出掛けよう」
「はい」
「薬を飲んでもう少し眠るといいよ」
「はい…。あの、もう少し…一緒に居てもらってもいいですか?」
「ああ、もちろん。ここで少しレポート書いても構わない?」
「はい。嬉しいです」

きっと病気になって心細かったんだろう。
従順な彼女は僕が居ることで安心したのか、しばらくするとまた美奈子さんは眠りについた。
美奈子さんの寝顔を眺めすぎてうっかり時間が経ってしまった事に気がつく。慌てて来週提出分のレポートをまとめる事にした。


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