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▽ いつか、君と


「紺野です」
「た、玉緒さん…!?」
「お見舞いに来たんだ。開けてもらっていいかな?」
「は、はい」

チェーンを外す音が聞こえガチャっと解錠されると、パジャマの上からカーディガンを羽織った美奈子さんが恥ずかしそうに顔を出した。

「こんな格好ですみません」
「こちらこそ急に悪かったね。入っても?」
「散らかってますけどいいですか?」
「もちろん」

部屋にお邪魔してもいつもよりほんの少しだけ本が雑然と置かれているだけで散らかっていると言うレベルではない。

「あんまり散らかっている所見ないで下さいね?」
「散らかっているようには全く見えないよ」
「本も出しっぱなしですし、掃除機もかけてないんです…恥ずかしい。玉緒さんが来るならちゃんとお掃除しとけば良かった…」
「君って人は…。風邪引いているんだから無理しない。それより大丈夫なの?声も枯れてるみたいだから…」
「はい。だいぶいいです。喉も痛みはないですし、熱も微熱になりましたし」

出していた本を片付けながら僕ににこやかに微笑む美奈子さんにハッとする。パジャマ姿を見るのは初めてでいつも身綺麗にして隙のない美奈子さんがとても無防備に見えてドキドキしてきた。
それを悟られないように僕は声を出した。

「そ、そうだ!ちゃんと食事はとれてる?」
「一応…食べてます」
「何を?」
「………プリンとか…ヨーグルトを…」

美奈子さんは片付けていた本で顔を少し隠し、僕を見上げ一拍置いて白状する。その姿がとてもいじらしくてますますドキドキしてしまった。

「それは食事とは言えないな。キッチン借りていいかな?食べるもの作るから君は休んでて」
「そ、そんな事玉緒さんにさせられません!」

立ち上がると美奈子さんが慌てて、僕のシャツを引っ張った。見上げられてまた心臓が跳ねる。
締まりのない顔を見られたくなくて、美奈子さんを回れ右させベッドに腰掛けさせた。

「ほら、病人はベッドで休みなさい」
「あの、でも…」
「じゃあ、キッチン借りるよ」

腕まくりをすると美奈子さんは諦めたように僕に困った顔を向けて『はい』と答えた。
レシピ通りにお粥を作り、母から教えて貰ったたまご酒も一緒に作った。
思ったより上手く出来たかもしれない。
器へよそい三葉を散らして美奈子さんの元へ運ぶ。

「美奈子さん起きれる?」
「はい」

ベッドから降りて小さいテーブルの前にちょこんと腰掛けた美奈子さんの前にお粥を配膳する。美奈子さんが『わぁ』と嬉しそうな声を上げ手を合わせた。

「いただきます」
「どうぞ。あまり自信はないけど」
「美味しいです」

満面の笑顔を見せて食べてくれる姿が可愛くてしばらく見とれていた。ハッと気づいて作っていたたまご酒も出した。

「たまご酒も作ったんだ」
「あの、……えっと、はい」
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです!」

この後僕は、美奈子さんが何故一瞬躊躇したのかを問い詰めるべきだったと後悔する事になった。


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