▽ 最後のドライブデート
ここは阿蘇、草千里
お天気に恵まれて、空は抜けるような青
見渡す限りの草原
春とはいえまだ肌寒い
「ここってなに?あの池は?」
「草千里ヶ浜だよ、池は火口の名残、雨水が溜まってるんじゃなかったっけな〜、あ、足元に気をつけてね」
「何で?うわっ!」
「馬とか放牧してあったりして、糞が所々落ちてるの」
それをひょいひょい避けて、どこまでも続きそうな草原を手を繋いで歩いた
「なぁ、コレってどこまで続くんだろ…」
「…終わりは必ずあるよ」
「そだね…終わりはある」
ニーナがそれを、この光景の答えとして言ったのか、それともこの夢の答えを言ったのか、わからないけど、とても淋しくなった
「ね、ね、旬平くん!」
「ん?」
「まばたきしないで、10数える間、そこの影を見てて!」
「なんで?」
「いいから!いくよ?10…9…8…」
「まばたきしちゃダメって、いわれるとしたくなるし」
「ダメ〜」
ニーナがここに来てからは、一度も写真を撮ってない
本当は欲しいけど、もしニーナが居なくなって、写真をみてニーナが写ってなかったら、これが夢だったと現実を突き付けられるから怖かった
ニーナは間違いなくわたしの隣に存在してる
「7…6…5…」
「うーっ!目が〜!」
「もうちょっと!4…3…2…」
だから心にだけ残る写真を…
「1!空みて!」
「え?うわっ…すげぇ…!何コレ影?」
「うん、影。影送り…」
空の青にクッキリとした、ニーナとわたしの手を繋いだ白い影
これだけで充分だよ
消えてなくなるまで、二人で空を眺めてた
くしゅっ、とニーナのくしゃみで我に返る
「あ、寒い?」
「んーんー、なんかさ、太陽みると、くしゃみでねぇ?」
「出ないよ…」
「出るって!ほらっ!」
ジーッと太陽を見てるニーナを見つめて、くしゅっ、ともう一度くしゃみを出させたニーナに笑いが込み上げる
「ほんとだ」
「なっ?アンタも出るって!」
「出ないよ!」
「出るって!」
「もう!いいから、移動!ドライブでしょ?」
「ちょっとくらいさ〜、乗ってもいいじゃーん!」
「今度」
「はいはい、わかりましたよーだ」
今度はないかもしれないのに
ファームランドも、カドリードミニオンもいいけれど、はしゃげる気分でもなくて、南阿蘇の方に車を走らせた
3/5
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