表*部屋 | ナノ

▽ hanabi


花火大会の後もう少し一緒にいたくて初めて美奈子をうちに誘った。
花火の二次会なんてなんだかわかんない誘いに快く返事してくれた。
コンビニで花火を買ってwest beachの横の砂浜へ。
 
花火に火をつけるとたちまち辺りを明るく照らす色とりどりの火花。
砂に足をとられ転びそうになりながら走り回って手持ち花火をグルグル回す俺を見て声を上げて笑うオマエ。

ワンセット分の手持ち花火を堪能して、最後の線香花火のオレンジの球が砂浜に落ちてしまうと暗い辺りを照らすのは月明かりだけ。
『終わっちゃったぁ』とショボンとした声を出した横顔をみた。
花火の明るさに目がなれてたせいか美奈子の表情がわからなくて近くに顔を寄せる。


「来年もまた一緒に花火する?」

「うん。したい」


俺の方を向いたかわいい顔ををじっと見つめているとまつげがぱちぱち瞬いて視線が下を向き少し伏せ目がちになった。


「あ、あの……」

「ん?」

「そ、そんなに近くで見られたらあの…」

「見たらダメ?」

「ダメっていうか…あの…」

「美奈子、あの…しか言わないからわかんないよ」

「……ドキドキ、するから…困る、の…」


俺なんていっつもオマエのスキンシップにドキドキさせられてのに、自分の事は棚に上げちゃってそんなこと言っちゃうんだ。

お返しとばかりに俯いた顔を覗き込んみる。
キュッと目をつぶっちゃうからつい欲望のままぷっくりした唇に口づけてしまった。

あ、やばい。
やっちゃった。

びっくりした美奈子は言葉を発せないまま急に立ち上がると立ちくらみを起こしたのか、へなへなとまたしゃがみ込む。


「大丈夫?」

「ううううううん!だ、大丈夫!の、飲み物飲めば…あのっ落ち着くと思うからっ」


さっき買ったコンビニの袋に入ってた缶を握りしめた美奈子に手を伸ばそうとすると『大丈夫』とブンブン頭と手を振って俺が触ろうとするのを拒む。

あれ?俺もしかして失敗した?
そしてよくみると美奈子が手にしてるのはコーラ。
今ふってなかった?


「あ、それ…美奈子!」

「え?きゃ、きゃああっ」


無遠慮に振られた缶からはコーラが勢いよくふきだし美奈子の服を濡らした。


「ははっ!美奈子ビショビショだ」

「もう!もう!ルカくんが変な事するからだよ!」


満足に反撃するものがなくて砂を掴んで泣きそうな顔で俺に砂を投げかけてくる。
だけど濡れちゃってる手は砂がまとわりついて、もっと慌てる美奈子がすっごいかわいくて俺は久しぶりに大声で笑った。
その笑いにつられて美奈子も笑いだす。


「美奈子が目をつぶっちゃうからだよ。キスしてーって言ってるのかと思って」

「ルカくんが近づくからだよ!」

「じゃあキスしていい?って聞けばしてもいい?」

「……そん、なの…わかんない」

「逃げないならキスするよ」


今度は正面から目をみつめ、美奈子は困ったように俯くけれど逃げないから俺にとっては『是』だ。
少し熱を持ったほっぺたを軽くなでるとビクッと少し跳ねる。
顎を少し持ち上げるとほんのり赤く色づいた頬をさせて、ジッと見つめる瞳には月がうつっててとてもきれい。

目をあまりにも逸らされないから人に見つめられることが苦手な俺が耐え切れなくなって目をそらして俯いた。
まっすぐ見つめられるとどうしていいかわからない。
逆にてれてくれたりさっきみたいに動揺してくれてた方がよかった…なんて。


「…なーんて、ね」


目をつぶり『ふぅっ』と息を吐き気持ちを切り替えて、冗談にすり替えようとした時に唇に柔らかくてあたたかい感触。


「ルカくんが目をつぶるからお返しだよ!」


正直びっくりした。
真っ赤でしてやったりの顔してるけど俺にとってはラッキー以外のなにものでもない。


「もっとお返ししていいよ?」

「え、えええ!?」


調子に乗って目をつぶって唇を突き出すと雰囲気であわててるって空気が伝わる。
パチッと目を開けると困った顔があって俺がフッと笑うとふくれっ面になる。


「それはまたキスしてーって顔?」

「もう!ルカくんのバカ!」

「ははっ、ごめんごめん。ほら、うちに行こ?服貸すから着替えろよ。そのままだと気持ち悪いだろ?」

「いいの?ありがとう」


これ以上する勇気はまだなくて、立ち上がり美奈子の手を引いてそのまま手を繋いで家まで歩く。
隣の美奈子をみると俺を見上げ優しく微笑む。
胸の奥がじんわりとあたたかくなって繋いだ手に力を込めると握り返してくれる。
願わくばこの幸せがいつまでも続きますようにって願った。





END


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