▽ すこしづつ
ギィッ
錆び付いたアルミの扉が開き、バタンと閉まる音がする
その音に二人ともビクッとして、慌てて離れると顔を見合わせ、どちらともなく笑いがこぼれてくる
「やべぇ…アイツの事すっかり忘れてた」
「うん…完全に忘れてた」
クスクスと静かに笑う姿をみて愛しくなる
「コウ大好き」
内緒話をするみたいに囁かれる
じっと見つめられて、照れ臭くなり、一階からきこえる冷蔵庫の開く音を確認すると言葉にするのが慣れなくて、また軽く口づけた
階段をあがってくる足音が聞こえ、そちらに目ををやると
「あれ?残念」
頭をガシガシタオルで拭きながら、階下から上がってきたルカが残念そうにぼやく
「あ?何言ってんだお前」
チラリと隣に目をやると、共犯者がソラッとぼけて小首を傾げてみせる
それが妙におかしくて、目が合って二人で合わせたようにフッと笑いがこぼれる
「なんだよ?二人して気持ち悪いな」
ルカは少し不満げに俺達をみると、カシュッとコーラの缶をあけ、興味の対象を読みかけの雑誌へうつす
「じゃあ、俺もシャワー浴びてくる」
「いちいち報告すんな」
ルカが雑誌に目を落としたまま間髪入れずに返してくる
「うるせぇ」
そのやり取りをみながら、お前がまた笑い出す
「いってらっしゃい」
ソファーから立ち上がり、頭を撫でてやるとさっきのように、柔らかく微笑んでくれる
自然と笑みがこぼれる
焦らなくていい
すこしづつ…
すこしづつ…
自分のペースで進んできゃいいんだ
END
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