表*部屋 | ナノ

▽ 口実


待ち合わせの場所へ向かうと、君は僕より先に待っていて、僕を見つけると胸の前で小さく手を振った
早めに出たのに、先に待ち合わせ相手がいる事は初めてだった

学校で会う君とは違い、浴衣姿の君は更におしとやかに見え、心がときめいた
けれど冷静に年上の振る舞いをし続けなければと、僕は努めて普通にし続けた


「早いね、待たせてごめんね」

「紺野先輩も早いです。わたしも今着いたばかりです」

「浴衣とても似合ってるね」

「あ、ありがとうございます」


両手にもったピンクのうちわで顔をあおぎ、君が顔の熱を逃がしてた
僕に好意をもってくれているのかと、期待してしまう

花火大会の会場で、何気ない会話の中に、いつも出掛ける時は、何だかんだで30分も早く着いてしまうと僕がもらすと、『わたしもなんです』と優しく笑う
僕は同じ事をしてしまうというだけで、そんな些細な事さえも嬉しく感じた


「花火まで縁日を回ろうか」

「はい」


『人混みが凄いから、はぐれてしまわない様に』と繋いだ手に温もりが伝わる
君と共有する時間がもっと増えたらいいのに
また君と出掛けたいんだ
君を見ると目があって、また平静を装い微笑んだ
誘ったら…また一緒に出掛けられるだろうか…


「今度…」


僕が口を開いたと同時に、花火の打ち上がる音で言葉が掻き消された

本当にタイミングが悪いな僕は
はぁ、とため息を漏らし、隣をみやると花火に小さく『わぁ』と感嘆の声を君はもらしてた

こんなに楽しそうな顔を見れただけでも充分なのかもしれないな

空を見上げると綺麗な花火があがってて、少し遅れて大きな音が響く


「いい場所ですね」

「早めに来て良かった、絶好の場所だね」

「はい」


最後の花火が上がり、空には物悲しく明かりの消えた後に煙だけが残った


「帰ろうか、危ないから送っていくよ」

「はい、ありがとうございます」


僕の隣でからん、ころんと下駄の音がする
送り届けてしまったら今日が終わる

今言わなきゃ、夏休み中は会えなくなってしまうのに…

もっと君と一緒に居たいのに


「今日はありがとうございました」

「いや、こちらこそ楽しかったよ、ありがとう」

「紺野先輩、良かったら夏休み中も、わからない所のお勉強教えていただけませんか?」


色んな会う口実を探し続けて、君がくれたきっかけ、僕はチャッカリ受け身でそれに乗る
少しだけビックリしたけど、取り繕ってすぐに笑ってあげる

ズルいな僕は


「いいよ、いつでも連絡して」


嬉しそうに笑う君がとてもかわいいと思う
僕の頭の中は君でいっぱいなんだ
だけど…もう少し心の準備が出来るまで、僕はもっともらしい口実をつくって誘い続けるんだろうな


君を好きだから一緒にいたいんだと言える日まで



END


2/2
[ | back | × ]

QLOOKアクセス解析
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -