0901 13:16

珍しく手負いの遼は止血をしながらチッと鬱陶しそうに舌を鳴らした。
後ろでぴったりと怯える依頼人は時々「冴羽さん…」と涙目で呟く。

「大丈夫さ」いつものように軽く笑って見せたが、本当は少し余裕がなかった。追ってくるのはわざわざ海外から日本へ来た特殊部隊。それも俺と同じ匂いがする連中ばかりで、人数が多い分どうしても余裕を持っている暇はなかった。
まだ海坊主と美樹ちゃんが援護してくれているのが救いだ。それに、もうすぐ相棒がくるはずだ。人が多いところは避け、港で立ち並ぶ倉庫に隠れながら遼は息を潜めた。無数にある気配。パイソンに弾を補充しながら気配を辿っていると斜め先の路地で何かが動いた。パイソンを突きつけ、さらに気配を探る。

「遼」
そこから聞こえたのは相棒の声だった。路地は暗く見えにくい。少し光があたったところからひょっこりと顔を出した―…香。少し見えにくいが、相棒に間違いはなかった。

「おせーよ、香」
遼はふうっと肩の力を抜いてパイソンをおろした。

「彼女は無事?」
その声が届いたのか遼の後ろに隠れていた依頼人も「香さん」と斜めに顔を出して安息の声を漏らした。
「…そう」香はその様子を見ると、腰をかがめず堂々とこちらへ来た。遼は慌てて「っのばか!気配を消せ!」どこにいるかわからない敵に標的にされることはわかりきっているはずなのに香は平然としていた。

暗闇で薄暗く見えにくかった香の姿が徐々に見え、それはいつもの身軽な格好とは違った。赤い膝丈までのドレス。香はこつこつと靴を鳴らし優雅にこちらを見ている。香には不釣合いなほどの赤が煌き、剥き出しの膝がいっそう白く浮き出ている。そのずれた光景に遼は呆然とした。


「お前…」


「今のうちに逃げた方がいいわよ」


「何言って?」


「一度だけ見逃してあげるから」

香はにっこりと笑って、ごく自然の動作で遼の足元ぎりぎりのラインを銃で撃った。
それはとても優雅で、簡単な行為だった。銃弾が地面に突き刺さり、それは確かに実弾であり、本気だと言う合図でしかなかった。「ひいっ」と依頼人が短い悲鳴を上げて驚愕したように震え遼の背中で縮こまるのがわかった。だが遼は何も出来なかった。思考を停止したまま、香を見つめていた。


「香…?」




「見間違えないで。私達はこれから敵よ」


香は美しく残酷な笑みを浮かべていた。


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