0707 22:42

「―りょう」


その声だけで、全ての神経が揺さぶられた。霧が少しずつ晴れて、向こうに立つ香の表情がはっきりと見えてゆく。
「遼、」そう微笑んだ香は、頬がこけた顔でも、寂しそうに元気を取繕う姿でもない。健康的な肌と溌剌とした笑みが、そこにはあった。


香、香香香香


そんな風に動揺する遼を横に、香は当たり前のように駆け寄って腕をそっと組んできた。そして頭を遼の肩へ置いた。程よい体重がかかる。体が歓喜している。待っていた。待っていたのだ。

「かおり」
ようやく出た声は掠れ、平然としたように取繕ったものの、隠しきれなかった。

かおり、

遼は腕を組んできた香の手を解くように引っ張り、両腕を掴んで、互いが正面を向くような形になった。そして両手で香の頬をしっかりと包み込むようにすくいとった。
香の顔は遼の様子に驚きながらもされるがまま、その手にすっぽりと収まり、目線が外れないように遼が香の瞳を覗いてくる。香は少し頬を染めて、照れたように遼を見ると、しっとりと湿った目を弓なりにして優しく微笑んだ。

「りょう」

雨が降る。それは水ではない、光彩の雨。赤も青も黄色もピンクも黄緑も、吹雪のように光の小さな球体が降る。濡れることはない。瞼を閉じ、開いた瞬間消えることもない。もうどこにもいかない。もうどこにも、



行かせはしない

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