0424 23:46

「これだわ」
香はいきなりそう呟いて頷くと、徐に立ち上がった。そして隣のソファで雑誌を読んでいた遼は何事かと手を止めて香を見上げた。「遼、私肉体改造する」

びしっと指を向けた先にはTVの中で微笑みながらポーズをとっている女性ボディビルダーだった。遼は途端に顔をさっと青くさせた。
「香ちゃん。こんな体になって何の意味があるんだ」
少なくとも、筋肉はあってもこんなにもむきむきで柔らかい胸の感触までどっかいってそうな肉体に、遼はまったくもって関心はなかった。だが、香は違ったようだ。
目をきらきらとさせながらお腹をさすって「まずは腹筋を6つくらいに割って…」とぶつぶつ計画を立てている。
「おい、香…」「遼、やっぱりシティハンターとして強靭な肉体は必要だと思うの。見た目なんかに左右されては駄目。丈夫に鍛えないと」
ね、と微笑む香だが、遼はちっとも納得していなかった。体を多少鍛えることには文句をつけるつもりもないが、香が目指そうとしているものは究極すぎだ。しかも香には魔法という完全無欠の方法があるのだから洒落にならない。(勘弁してくれ)遼は持っていた雑誌を床に置いて体を起こした。説得という説教をしなくばならない。むきむきの香なんて、何も嬉しくないのだから。

遼はさすがに譲れないとばかりに、意気込む香の腕をひっぱり説教の為に座らさせようとした時、「えい」と香がその5秒前に人差し指を回した。そしてこう付け足した。「見本はやっぱり海坊主さんよね」「え、」遼の中で稲妻が突き刺さった。
すると、なんということでしょう。
自分よりもほっそりとした腕だったはずなのに、一瞬にしてその幅が広がり、遼は目の前で掴んでいた腕が、自分よりも筋肉質に太く硬くなっている事を肌で実感したのです。

「……」遼は香の顔を見上げれず、ただその腕を見ただけで硬直してしまった。
そんな事はお構いなしに、香は「すごい。やっぱりたくましいと自信がつく」と遼の腕をひっぺがして自分のシャツをめくった。
いつもならくびれが見えて、それこそかぶりつきたくなるのだが、そこに映ったのは、たくましく筋肉をつけてきれいに六つに割れた腹筋。遼はぐぐぐとようやく首を動かし、香を見上げた。確かに香の顔はそのままだった。

「顔」は。

顔と体の対比が海坊主のようになってしまい、遼より体格は大きく、香の顔が遠い。遼はその2秒後、生涯初めてかという程の絶叫をすることになる。


その数分後、発狂した遼の声を聞いたミックとかずえがドアを蹴飛ばして駆けつけ、その2秒後、今度は三人で一緒に絶叫することになる。

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