0310 13:16

香は恋愛経験もろくに重ねてないだろう。自分が女だという自覚も、あるにはあるが伴った経験は少ない。すぐに顔を赤くするし、変な勘違いをすぐに起こしてハンマーを片手に怒鳴り散らす。でもそれが香らしく、香だからこそよかった。
遼はふらふらして、香が時々母親のように叱って、妹のように優しく妬いてくる。


「遼、どこに行っていたの」夜中に帰ってきた時、香は睨むように遼に言った。腰に手を当てて、仁王立ちしている。飲みすぎた俺はそんな香の様子を視界に納めて、へらへらと手を上げて「むふふ、遼ちゃんデートしてたの」なんて答えれば、香は「―そう」と真っ赤になった遼の服をぐいっと引っ張った。多少酔っていた俺は力も入れてなかったのであっけなくひっぱられて玄関の床に仰向けに倒された。香はフンとまるでオリンピックの柔道選手にように遼の体を跨った。俺の腹から股にかけて香の尻がのる。急速に酔いがさめていく。香はそんな俺の様子にはお構いなく両手を俺の首に持っていった。首でも絞めるのかと思えば、香は遼の肩に手を置いて顔を近づけた。「…っ」かおり、声に出ない声が漏れた。だが香の顔は遼の右頬を掠め、耳元に落ちた。
「なに、遼」そう囁かれた瞬間、ぞくりと体が震えた。声のトーンはまるで、発情期を控えた雌猫のようだった。思考が鈍って、体が硬直した遼を体をもう一度起こした香は女王様のように見下ろしそして首元にまた顔を寄せた。汗がどっと出て、香の行動を必死に追っている本能に呆れるも、やめてしまう事は出来ない。そこで、香は遼の浮き上がった喉仏を舐めた。皮膚一枚向こうにある香の舌はぺろりと飴を舐めるようにして、ちゅっと唇をおとした。
お前、どこでそんな事を習ったんだ。嘘だろ。本当に、香なのか。けたましいサイレンが鳴っている。今すぐに起き上がって、跨っている香を引き剥がさねば、外れてしまう。ずっとしまっていたものが、はずれてしまう。鼻を掠める匂いは香だった。同じシャンプーと香が持つ匂い。ちゅ、ちゅ、と首元がくすぐったく熱い。そのまま声帯を持っていかれそうだ。
「かおり」ようやく出た声に香は反応した。そして俺の首を両手で持ち上げるように頭ごとかきだいた。香の体重が重なり、まるでセックスのようだと思ったが、ぎゅっと抱き込まれた香の体温はまるで母親のようだった。そしてようやく気付いた。香は泣いていた。
それは号泣ではなく、さめざめと泣くような、香らしくない涙だった。そしてさっきまでの雌猫はどこに行ったのか、香はひくりと掠れた言葉を紡いだ。
「嘘つき」核心を得たような言葉。ああ―と思った。ミックだな。あいつが香に言ったのか。ホテルでわざわざシャワーを借りて、酒を飲んで名残を消したのに。これではまるで喜劇だ。遼は天井を仰ぐように視界の端に入る香の髪を撫でた。そして体をようやく起こし、そのままくっついて離れない香をそのままに「部屋に行くぞ」と言った。だが香は首を振ってそのまま遼に首をぶら下がったまま。まるで子どもだ。遼は苦笑いをした。さっきまでの勢いはどこにいった。遼は子どもあやすように香の背を撫でた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -