わたしの初恋の、わたしが初めて付き合う男の子。わたしが一生を捧げても良いと思えた男の子。


「志摩くんっ!あのね、さっきそこにすごく可愛い猫さんが居たの!」


「へぇー、俺も見たかったわぁ」


何かわたしが口にする度に柔らかな笑顔を浮かべて、その大きい掌で頭を撫でてくれて、優しく声をかけてくれる。まさに理想の彼氏だと思う。志摩くんは女の子が好きで少し浮気癖があるけど、それでも最後にはわたしの所へ戻ってきてくれてその甘い声で名前を呼んでくれるからつい許してしまうんだ。それが浮気癖の治らない原因かなぁとは思うんだけどやっぱり惚れた弱味っていうのかな…どうしても志摩くんの好きにさせちゃうんだよね…


「なぁなぁ、名前ちゃんってさ俺が他の女の子と話してて嫉妬とかせぇへんの?」


二人、縁側に腰かけてアイスを食べながら平和な午後を過ごす。そんななか、志摩くんが普段通りの笑顔を柔らかな浮かべて唐突に疑問をぶつけてきた。チリン、と綺麗な風鈴の音色が耳を通り、少しだけ沈黙が流れた。


「うーん…志摩くんはわたしが嫉妬してるように見える?」
「いや、全く見えへんけど、」
逆に問いかけてみると志摩くんは少しも考える暇もなく即答で答えた。まぁ確かに今まで沢山志摩くんが女の子と仲良く話してたのを目撃したけど一回も怒った事はなかったし嫉妬したって口に出した事もなかった。だからわたしが嫉妬してないように見えてたのかなぁ。


「志摩くん、わたしね、志摩くんが女の子と話してる度、毎回嫉妬してるよ?」


「…へ?」


ぽかん。と、口を開けて目を丸くしている何とも間抜けな表情(まぁそんな表情も可愛いんだけど!)を浮かべて言葉を失くしている。余程驚いたのか、その表情が一時直らないから思わずクスクスと笑みが溢れてしまった。いつもはわたしのことからかってるのにこんな表情もするんだなぁ…初めて見た。


「ただ口に出さないだけで、ほんとはいっつも嫉妬してたんだよ?」


「…名前ちゃん、」


その瞬間、志摩くんに腕を引かれてバランスを崩して思わず其所に倒れ込んでしまって、所謂「志摩くんに抱き寄せられている体制」になる。二人分の食べかけのアイスが砂場にペチャッと音を立てて落ちた。ソーダ色のそれは早々と溶け始めてじわじわと渦を巻くような形になる。それよりも見ただけでは細い志摩くんの腕が予想以上に逞しいのにドキドキした。密着してて普段なら暑いからって言って離れると思うんだけど、何故か不思議と暑くなくて。どうしてだろう。冷たい感じがした。


「志摩くん…?」


「本当は、名前ちゃんに嫉妬させたくてわざと色んな女の子に話しかけてたんやけど、あんまりにも顔に出さないから嫉妬なんかしない子なんやと思ってたわ」


そう言って困ったような、でも嬉しそうな表情で笑っている志摩くん。「でも、本当のことが分かって嬉しいわぁ」って付け足して更に強く抱き締められては、顔に熱が集中するのが分かった。わざとやってたなんて全然気づかなかったよ…。でもそういう理由ならすごい嬉しいなぁ。やっぱり志摩くんがわたしの彼氏で良かった!


「志摩くん、わたしすっごく嫉妬したんだからね?」


「それは…ほんま、堪忍」
苦笑混じりの笑みを浮かべて謝ってくるのを見て、それだけで胸が高鳴るのを感じて自分から軽く触れるだけのキスをした。恥ずかしくなってすぐ離れて、目が合ったらお互いに笑みを洩らしてからどちらからともなくキスをした。ぬるりと、志摩くんの舌が侵入してくる。後頭部に手が添えられて更に強く唇が押し付けられる。それだけで頭がクラクラしてきて、薄く目を開けるととっくに溶けてしまったアイスが横目に入る。あのアイスのように自分も溶けてしまいそうだと、そんな錯覚に陥る。夏の恋って暑くて甘い。


(いつか別れる日が来るなんて早々思わないキスをわたし達は交わした。)




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